『ゲット・アウト』😉

Get Out
103分 2017年 アメリカ=ユニバーサル・ピクチャーズ 日本配給=東宝東和

2017年10月初旬にアメリカで封切られた『ブレードランナー 2049』は週末の興行収入が3150万ドル(約36億円)と大コケしたそうだが、同じ年に公開された本作は逆に、ごく小規模の公開だったにもかかわらず、2月下旬の週末に3337万ドル(約38億円)を稼ぎ出し、この時期のナンバーワンヒットを記録している。
これが映画デビュー作となった監督のジョーダン・ピールは黒人のコメディアンで、黒人差別をテーマにしたことがウケたらしい、というニュースが日本の朝の情報バラエティー番組でも報じられ、興味が湧いた。

主人公の黒人写真家クリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)が、付き合って4カ月になる白人の彼女ローズ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)に誘われ、ニューヨークの郊外にある彼女の実家で週末を過ごすことになる。
クリスの親友、やはり黒人の運輸保安庁警察官のロッド・ウィリアムズ(リル・レル・ハリー)は「白人の実家に行くな。嫌な思いをするだけだ」と忠告するが、クリスもローズも笑って取り合わない。

実際にクリスがアーミテージ家に来てみると、脳神経外科の父親ディーン(ブラッドリー・ウィットフォード)は「オバマに3期目があったら投票したよ」というほどのリベラル派。
母親ミシー(キャサリン・キーナー)は心理療法師で、スモーカーのクリスに催眠術をかけて禁煙させたい、それが愛する娘のためでもある、と持ちかける。

両親はクリスに対して何ら差別的な態度を見せないものの、どこか慇懃で他人行儀な印象がつきまとう。
一方、メイドのジョージーナ(ベティ・ガブリエル)、使用人のウォルター(マーカス・ヘンダーソン)はクリスと同じ黒人ながら、最初からクリスに打ち解けようとせず、深夜に庭や邸内を徘徊していた。

クリスがローズの部屋で一夜を過ごした翌日、アーミテージ家に一族郎党が集まり、親睦パーティーが開かられる。
招待客のほとんどが白人で、クリスに向かって「タイガー(・ウッズ)は素晴らしいゴルファーだ」などと言いながら、上から目線で観察されているような印象が拭えない。

やがて、ミシーの催眠術によって意識を失わされたクリスは、ふと気がついたら地下室のカウチに縛り付けられていた。
自分はなぜ拉致監禁されたのか、アーミテージ家の人間たちの狙いはいったい何なのか。

最初はサスペンスとコメディーをミックスさせたようなエンターテインメントかと思ったら、非常に緻密、かつ巧妙に張り巡らされた伏線によって、ぐいぐい本格的なホラーの世界に引き込まれる。
役者はみんな好演で、とくに使用人とメイドを演じる黒人男女ふたりの演技が巧み、という以上に薄気味悪い。

本作は全米で大ヒットしたのみならず、うるさ型の批評家のサイトでの評価も非常に高い。
とりわけ、表向き差別を批判しているリベラル層の深層心理に巣食った、より根深い差別感情を抉り出した、として大いに称賛されている。

ただし、白人でも黒人でもない日本人のぼくには、監督のピールをはじめとする製作者がことさら黒人の優位性を主張しているようにも感じられた。
決して後味はよくないが、2017年一番の問題作だったことは間違いなく、いまでも観ておく価値は十分。

採点は80点(オススメ度B)。  

旧サイト:2017年11月8日(水)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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