『東京オリンピック』(WOWOW)😉

170分 1965年 東宝

名匠・市川崑が総監督を務めた1964年東京オリンピックの公式記録映画。
ただし、よく知られているように、いわゆるドキュメンタリーとはまったく異なった一種の芸術作品である。

オリンピックはおろか、スポーツもプロ野球の巨人ぐらいしか知らなかった市川をはじめ、和田夏十、白坂依志夫、谷川俊太郎らが、劇映画的なオリジナル脚本を共同で執筆。
そのストーリーに沿って様々な競技が撮影され、1本の映画に編集されており、極めて作家性が強く、それだけ記録が二の次にされてしまっている。

オープニング、太平洋の日の出に日の丸が重なり、ナレーター三國一朗が第1回アテネから第18回東京までの都市名を延々と語り続ける。
それからやっと旧国立競技場での開会式に入ると、各国選手団の入場行進を撮影したこの導入部がまたやたらと長く、こんな映像を流し続けることに何の意味があるのか、理解し難い。

競技の撮影も非常に極端で、例えば体操ではカメラが選手の動きや表情をクローズアップするだけでなく、床運動で選手が足踏ん張る際に発する「ギュッ、ギュッ」という音など、細かい音も丹念に拾ってゆく(これだけで1700万円の費用がかかったらしい)。
ところが、それほどディテールこだわって撮影している割りに、肝心の勝敗の描写は拍子抜けするほど淡々としていて、勝敗や順位がテロップで示されることもなく、選手が表彰台に立つ場面もちっとも盛り上がらない。

日本が金メダルを獲得し、「東洋の魔女」と異名を取った女子バレーボールの描写も、この程度で済ませてしまうのか? と言いたくなるほどあっさりしたもの。
一方、大会のメーンイベントとも言うべき男子マラソンでは、終盤にトップを独走するビキラ・アベベの姿を延々と追い続けており、トラック勝負で3位に落ちた円谷幸吉は日本代表なのにまるで添え物のようだ。

決してつまらない映画ではなく、まだ藁葺き屋根の多かった八王子の道路で行われた自転車ロードレースの場面、チャド共和国からひとりだけ参加していたアフドラ・イサという選手の描写など、それなりに興味深いシーンも少なくない。
しかし、これが日本人の観客が見たがる映像か、ここまで長い尺を割く必要があったのかとなると、やはり疑問が残る。

芸術的作品としての完成度はさておき、「公式記録映画」として製作された作品である以上、劇場公開当時、様々な批判を浴びたのも当然でしょうね。
当初は黒澤明が監督を務める予定だったそうだが、実現していたらどんな映画になっていたのかな。

お勧め度は歴史的価値を加味してB。

旧サイト:2016年06月10日(金)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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