『バンクーバーの朝日』(WOWOW)🤗

133分 2014年 東宝

第二次世界大戦前の1914年から太平洋戦争に突入していた1941年まで、カナダのバンクーバーで活動していた日系移民二世の野球チーム〈朝日軍〉を描いた実話ダネ映画。
移民たちの苦難に満ちた生活描写に加えて、野球自体の描写も大変優れており、いささか口幅ったい勧め方ではあるが、僕の記事や著書を読んでくれた読者の方々なら、きっと心底から感動を覚えるはずだ。

主人公のジョー笠原(妻夫木聡)はふだん、製材所で肉体労働に従事している朝日軍のショートでキャプテン。
職場では居丈高なカナダ人の現場監督による差別に耐え、家庭では広島からの移民である両親(佐藤浩一、石田えり)の愚痴を聞きながら、毎日練習に汗を流している。

笠原と二遊間コンビを組むセカンドのケイ北本(勝地涼)は漁師。
港からグラウンドへ練習へ行こうとするたび、「遊ぶ余裕があってええのう」と年寄りに嫌味を言われている。

捕手のトム三宅(上地雄輔)の仕事は両親が経営している豆腐屋の手伝い。
彼もまた、もっと仕事をしっかりやれという小言を背中に受けながら練習に通っている。

そんな朝日軍の選手たちが黙々とキャッチボールを繰り返し、声を出しながらノックを受けている描写がいい。
ふだんの生活が辛ければ辛いほど練習に熱が入る彼らの姿が、説得力とリアリティをもってこちらの胸に迫ってくる。

監督の石井裕也はキャスティングに当たり、スタンドインを使わずに野球のプレーができることを条件にしたという。
野球というスポーツのどういうところが見る者を感動させるのか、野球を描くのに絶対に外せない勘どころは何か、この監督は実によくわかっている。

朝日軍は弱いチームだった。
パワーでは地元の白人チームに敵わず、バントやチームプレーで勝てるようになったら、白人の審判にアンフェアなジャッジをされるようになり、たまりかねたケイが乱闘騒ぎを起こすと、リーグから一方的な出場停止処分を科されてしまう。

負けたくない、このまま引き下がりたくない、しかし、どうにもならないことが多過ぎる。
そんな思いを胸に集まった朝日軍の選手たちの前で、レジーの妹(高畑充希)が”Take me out to the ball game”を歌うシーンには涙がにじんだ。

その後、レジーがケイに言うセリフはもっと素晴らしい。

「やっぱり、野球は楽しいよ。
 まあ、いろいろあるけどさ。
 おれ、野球がやれるんだったら、ここに生まれてよかったと思える」

お勧め度はA。

旧サイト:2016年03月30日(水)付Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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