『SNS 少女たちの10日間』😊

V síti/Caught in the Net 
104分 2020年 チェコ 日本配給:ハーク R15+

今年は一度も映画館に足を運んでおらず、早く何か観に行かなくちゃ、と思っていたら、東京に3度目の緊急事態宣言が発出され、映画館がまた休業要請の対象になってしまった。
それでも、きょうまでは上映時間を変更して営業している劇場もあり、大急ぎで観に行ったのが、新宿武蔵野館で上映していたこの作品。

日本では公開される機会の少ないチェコのドキュメンタリー映画だが、題材は世界各国でも社会問題化しているSNSを利用した児童への性的虐待問題。
日本でも最近、ユーチューバーが15歳の少女に猥褻な画像を自撮り、送信させた事件が大きく報じられたばかりで、極めて今日的なインターネット社会の問題に取り組んだ野心的な意欲作である。

ネット社会で〝獲物〟を探し回っている加害者たちは、どのような手口を使って児童たちにアプローチをかけているのか。
ふたりの監督、バーラ・ハルポヴァーとヴィート・クルサークは、被害に遭った児童たちにインタビューしたりはせず、12歳の少女を装った〝女優〟を使い、加害者たちをパソコンの画面に引っ張り出そうと考える。

本作の企画が立ち上げられ、趣旨に賛同する女性を募集したところ、30人以上の応募があり、自身が幼少期にネットを通じて性的逆的を受けた経験者が多かった。
彼女たちがオーディションで監督のインタビューに答え、赤裸々な体験談を語るあたりから、何とも形容し難い緊張感が漂い始める。

最終的に選ばれたのは、テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハーの3人。
このうちテレザはチェコの映画学校DAMUで演技の勉強をしているが、残る2人は素人同然と言っていい。

彼女たちは12歳の少女として偽名が与えられ、偽のアカウントでフェイスブックをはじめとする複数のSNSに登録。
毎日、家の自室からネットにアクセスしているという設定にリアリティーを持たせるため、巨大なスタジオの中に三者三様の部屋の精巧なセットを作り、そこに彼女たちが子供のころから愛用している私物まで配置する。

すべてのセッティングが完了し、彼女たちの顔写真付きアカウントがSNSに登録されるや否や、たちまち男たちからアクセスが殺到。
彼らは「僕の裸を見せてあげよう」「きみも服を脱いでくれ」と言い出し、性器を見せつけたり、猥褻な動画やエロサイトのリンクを送りつけたりする。

一応、ボカシはかかっているが、幼児や動物の出てくる過激な映像もあり、観ているうちに辟易してくるのも確か。
それと同時に、10代前半でこのように画面を通じて性的暴力をふるわれた子供の心にはどのような傷跡が残るか、想像しただけで慄然としてしまう。

10日間のチャットと撮影の期間中、彼女たちに性的メッセージを送りつけてきた人間は2458人。
制作中は精神科医、性科学者、弁護士など、この問題に詳しい専門家が女優3人のケアに当たっていたが、あまりのストレスに耐えかねた1人が、ついに感情を爆発させる場面もある。

クルサークのインタビュー記事によれば、本作はチェコ本国で大変な反響を巻き起こし、本作に映された加害者たちを警察が拘束。
さらに、日本の文部省に相当する教育機関でも本作が取り上げられ、子供たちを SNSの悪影響から守ることはもちろん、ネット時代の性教育について改めて議論されるきっかけになったという。

ただし、これがいわゆる本格的なドキュメンタリーの秀作かとなると、一抹の違和感も残る。
本作の手法は正統的なドキュメンタリーというより、テレビのドッキリやリアリティー番組に近く、加害者たちを騙して爼上に乗せていることも事実だからだ。

とはいえ、コロナ禍の出口が見えず、全世界的にネット依存度が高まっている折、いままで正面からスポットが当てられることのなかった問題に正面から取り組んだ本作の意義は大きい。
とくに、年頃のお子さんがいる全世界の保護者の方々には大きな示唆をもたらすだろう。

採点は85点。

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサなどで上映中(※4月26日以降は変更あり)

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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