『ひとよ』(WOWOW)🤨

123分 2019年 日活 PG12

茨城県大洗市で小さなタクシー会社を営む稲村家で、3人の子供に暴力を振るう父親を妻が殺害し、懲役を務めて15年のちに帰ってくる。
しかし、母親によって父親の虐待から解放された子供たちの胸には、それぞれに複雑な思いが去来していた。

母親・稲村こはるはいまや65歳になった田中裕子、子供たちは長男・大樹が鈴木亮平、次男・雄二が佐藤健、長女・園子が松岡茉優。
大樹は妻・二三子(MEGUMI)と別居中、雄二はウダツの上がらない風俗誌専属のフリーライター、園子は美容師になる夢を諦めてカラオケ・スナックのホステスをしている。

こはるが元殺人犯であることから、タクシーや会社の壁に「殺人タクシー」などと落書きされたり、こはるを中傷する週刊誌記事のコピーが貼り付けられたりといった嫌がらせを受けていることが、観ているうちにわかってくる。
雄二は、その対応に追われる家族の様子をスマホで撮影し、会話をボイスレコーダーに収め、いずれは自分の家族を小説に書こうと考えていた。

そんな雄二の企みを察知した園子は、大樹とともに雄二をカラオケ・スナックに呼び出して大喧嘩。
かねてから大樹に離婚を迫っていた二三子も、記事のコピーによって初めて義母の前科を知り、自分たちの娘は殺人犯の孫と呼ばれるのか、と逆上する。

役者はそれぞれに好演・熱演で、撮影・鍋島淳裕によるシックな色調の画面、美術・今村力によるタクシー会社やカラオケ・スナックの雰囲気など、雰囲気作りはなかなかよくできている。
が、髙橋泉によるオリジナル脚本には納得できない部分も多い。

まず、こはるは子供たちを虐待から救うために夫・雄一(井上肇)を殺したことになっているが、その雄一がなぜこれほどDVに走るようになったのか、そもそもの理由がわからない。
次に、夫の子供への虐待が殺人の動機だったのなら、こはるは裁判で情状を酌量され、もっと早く仮釈放されているはず。

また、地元の電気屋の娘の二三子が、大洗のような地域社会では大きな話題になっただろうこはるの夫殺しを、結婚してから娘が幼稚園に通うようになるまで知らなかった、というのも不自然。
おれたちは殺人犯の子供になってしまった、自由になんかなっていない、と雄二が毒づいていることからも、こはるの殺人が二三子や、地元で電気店を経営する二三子の家族の耳に入っていなかったわけがない。

もっとわからないのは、クライマックスでのタクシー同士の追っかけっこ。
前歴を隠してタクシー会社に就職していた堂下道生(佐々木蔵之介)の酔っ払い運転ぶりがわざとらしく見え、その堂下が暴走させるタクシーに、居場所もわからないまま後を追った雄二の運転するタクシーがどうやって追いついたのか。

と、何だかんだと文句ばかり書いているが、それなりに見応えはあり、寒々とした北関東特有の空気感も大変リアリティを感じさせる。
それだけに、『孤狼の血』(2018年)でいいところを見せた白石和彌監督にしてはもったいない一篇だと思いました。

オススメ度C。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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