BS1スペシャル『世界一の投手をめざす〜ダルビッシュ有が語る活躍の秘密〜』(NHK-BS1)🤗

50分 初放送:2020年12月28日(月) 午後8:00~8:50

昨年、スポーツライターとして改めて痛感させられたことのひとつに、技術論を文章で表現することの難しさがある。
それは、ダルビッシュ有の特集が組まれたSports Graphic Number 1014(2020年11月19日号)で、ダルビッシュに教わったことについて前田健太にインタビューしたときのことだった。

前田の言葉は常に明快で、こちらがあえてぶつけた(あえてではない場合も多いが)初歩的な質問にも、親切かつ丁寧に答えてくれた。
しかし、彼の話が具体的になればなるほど、素人である一般のファン、ひいてはライターの僕にも理解しにくく、わかりやすい言葉に置き換えるのが困難になるのである。

その点、こういうドキュメンタリー番組の場合は、ダルビッシュの言葉を映像で再現でき、僕も含めた素人には言葉よりもはるかにわかりやすい。
ダルビッシュが同じ腕の振りでカットボールとスパイクスライダーを投げ分けており、ピッチトンネルを通過した先で曲がり方が大きく変わる現象など、実際の映像をふたつ重ねたり並べたりして見せてくれる。

ちなみに、ピッチトンネルとは、18.44mのうち、バッターが投球を認識できる7m手前までのこと。
ダルビッシュはこの投球の通り道を抜けた瞬間、小さく曲がってストライクゾーンに入るカット、大きくボールゾーンに逸れるスライダーを投げ分け、バッターを打ち取っているのである。

「打席まで続いているガラスの壁に沿って投げる」というダルビッシュ独特の表現も、本作のように実際の映像にCGのガラスを重ねて見せられると大変わかりやすい。
また、あえて初心者向けにツーシーム、フォーシーム、ジャイロ回転をCG動画で再現しているくだりも精巧にできており、野球に関する知識に乏しい人、野球ファンでない人も面白く観られるだろう。

様々な変化球を探究し続けるダルビッシュは、自らの行為を「芸術」であり、新球を編み出す研究や練習など、「いろんな過程も含めてアートだと思う」と語っている。
そういう〝究極の一球〟でバッターと勝負するときは、「バッターは見ていないないですね、何も見ていない」そうだ。

いまのダルビッシュ は、かつて打撃を極めたイチローと同じ、達人にしか到達し得ない領域に入っている。
ここまできたら、彼らの言葉は、われわれのようなライターが余計な注釈など加えず、ただ聞いたままに書き、伝えるしかない。

オススメ度A。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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