『鯉昇れ、焦土の空へ「カープを愛した初代監督と広島市民の奇跡のドラマ」』(NHK-BS1)🤗

73分 制作:NHKエンタープライズ
初放送:2014年9月26日(金)19:30~20:43 NHK総合(中国地方ローカル)
再放送:2015年2月7日(土)15:05~17:18 NHK総合(全国)
:2020年12月27日(日) 8:35~9:48 NHK-BS1

原爆投下から70年目の2014年、NHKが制作した連続ドキュメンタリー『シリーズ被爆70年  ヒロシマ 復興を支えた市民たち』の第1回として放送された作品。
2年後の2016年には、広島カープの25年ぶりのリーグ優勝に合わせてDVD版も販売された。

カープの初代監督・石本秀一を主人公にしたドキュメンタリーならこれまでにも制作されているが、本作はイッセー尾形が石本を演じた再現ドラマを主体としている構成が異色。
また、その再現ドラマに実在の人物のインタビューを挿入する手法が非常に斬新で、観る者を引き込まずにはおかない。

最も大きな特色として、本作には石本のほかに、カープの草創期に関わった無名の選手や市井の人物が登場する。
そのうちのひとりが、有限会社・迫谷建具を経営していた石本の友人の息子、当時9歳だった迫谷富三。

昭和26(1951)年、迫谷の作業場にやってきた石本は、経営難から脱却できないカープが大洋に吸収合併されるかもしれない、と告白。
それを聞いていた富三は、5円玉ばかりで200円貯めていた貯金箱を金槌でたたき割り、「これをカープのために使うてください!」と石本に渡そうとする。

富三は将来カープの選手になる夢を抱いており、革のグローブを買うために貯金を続けていた。
しかし、カープがなくなっては、グローブを買っても意味がない、だから自分の貯金をカープ再建に役立ててほしい、というのだ。

いかにも人情話的なエピソードなので、このくだりには創作も入っているのかもしれない、と思ったら、ここでカットが変わり、迫谷建具を継いだ現在(本作放送時)の富三さん本人が出てきたから驚いた。
なかなか意表を突いた演出で、富三さんが持参した当時の会社の看板など、カープとは直接関係のない物が、かえって市民とのつながりの歴史を感じさせる。

本作にはこのほかにも、カープ創立の昭和25(1950)年に皆実高校から入団した捕手・長谷部稔、カープが合宿所代わりに居候していた旅館・御幸荘の女将・砂田時枝の娘・陽子さんが登場。
とくに当時の苦労話を笑いながら打ち明ける陽子さんの語り口に、現在の地元のカープファンにも受け継がれた広島独特の愛情と距離感を感じた。

石本役のイッセー尾形も好演で、広島弁のアクセントやイントネーションが上手く、僕が聴いていてもまったく違和感を感じさせない(彼は福岡出身)。
彼が出演する部分を書き割りの置かれたスタジオと、本格的再現ドラマに分けた構成も光る。

最後に映し出されるのは、カープが初優勝した昭和50(1975)年10月15日、脳卒中の後遺症を抱えていた石本さんが、自宅のテレビの前で感涙にむせぶ姿。
中学生のころから何度も何度も繰り返し観たけれど、やはり感動的でした。

オススメ度A。

DVD版 発売:2016年 定価3000円=税別
スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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