『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(IMAXレーザー)☺️

117分 2020年 東宝 PG12

少年少女向け漫画の映画化作品はWOWOWで放送されたとき、観る気になったら観る、というのが57歳の映画ファンの基本的スタンスである。
個人的興味から実写映画版『進撃の巨人』2部作(2015年)は観たけれど、アニメ映画『ワンピース』シリーズ全14作(2000〜2018年)は1本も観ていない。

それでも『鬼滅の刃』だけは劇場で観ておきたくなった理由は、まず何と言っても、コロナ禍でエンタメ業界やプロスポーツ界が観客動員に苦労している最中、200億円を超える驚異的な興行成績を挙げているから。
ただ、それだけならやっぱりWOWOWでいいや、と思っただろう。

そこへ、「鬼退治の映画なんですってね」と、小守スポーツマッサージ療院でSトレーナーに耳打ちされ、不意に興味が湧いてきた。
先週、東京国立博物館の特別展『桃山−天下人の100年』『日本の考古』に足を運び、〝日本昔話〟への郷愁を掻き立てられたばかりだったこともある。

たまたま時間のできたきのう夕方、TOHOシネマズ新宿へ16時40分開始のIMAXレーザー上映版を観に行ったら、主に若いカップルや女性グループ、僕のようなお一人様のお客さんで7〜8分の入り。
時節柄、これほど密なのは少々薄気味悪かったが、全員がほとんど咳もヒソヒソ話もせずに大人しく鑑賞していました(大音響で聴こえなかっただけかもしれませんが)。

前半の1時間くらいまでは、僕のように少年ジャンプに連載された吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)の原作漫画を読んでおらず、テレビアニメ版も未見で、何の予備知識もない観客にとっては、あれあれ? どうなってんの、これ? と首を捻りたくなるような展開が延々と続く。
人間を食い殺す鬼が跳梁跋扈している世の中、彼らを征伐するために鬼殺隊が組織され、その若き剣士・竈門炭治郎(かまど・たんじろう、声=以下同:花江夏樹)、我妻善逸(あがつま・ぜんいつ、下野紘)、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ、松岡禎氶)が東京へ向かう無限列車に乗り込み、鬼と凄絶な戦いを繰り広げる。

と書くと、いかにも簡単でわかりやすいようだが、登場人物のキャラクターや相関関係、鬼と人間が長年抗争を続けている世界観などはまったく説明されず、映画を観ながら理解していくしかない。
鬼たちがもともとは人間で、自分たちが仲間に引き入れようと狙った人間を次々に鬼に変貌させているゾンビやヴァンパイアのようなモンスターであることなども、観ているうちに何となくわかるようになっている。 

炭次郎たちの目的は、この列車に乗っている炎の呼吸を駆使する炎柱(えんばしら)・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう、日野聡)に会い、彼の元で修行を積むことにあった。
しかし、列車は下弦の壱・魘夢(えんむ、平川大輔)という鬼に乗っ取られており、彼の妖術によって炭次郎たちも煉獄も眠らされ、夢の世界に連れ込まれてしまう。

この夢の中でそれぞれのキャラクターの過去や家族関係が描かれ、炭次郎がかつて家族を鬼たちに惨殺されたこと、煉獄が厳しい剣士の父親に育てられたことなどが明らかにされる。
魘夢はそういう居心地のいい夢の世界に炭次郎たちを縛りつけ、その間に無意識下にある彼らの「精神の核」を破壊してしまおうとしていた。

このアイデアはなかなか面白く、トランスジェンダー的な魘夢のキャラクターも秀逸で、夢の中で炭次郎たちが泣いたり笑ったりする様子を眺めてサディスティックな喜びに浸る表情が特にいい。
列車で炭次郎たちとの激しいバトルが始まると、炭次郎の妹・禰豆子(ねづこ、鬼頭明里)が突然暴れ出して、実は彼女が鬼と化していながら兄たちと戦いを続けていることがわかる。

IMAXレーザーで観る車上の戦いは迫力たっぷりで、断末魔の声をあげる魘夢の最期も独特の余韻を残し、大変印象的な場面に仕上がっている。
だから、てっきりここでおしまいかな、と思っていたら、最後に魘夢の兄貴分格である上弦の参・猗窩座(あかざ、石田彰)という鬼が登場し、満を辞して煉獄とのメインイベントのバトルに突入。

しかし、僕のような年寄りには、正直なところ、このくだりはかつてのジャンプの人気連載作品『北斗の拳』(1983〜88年)、『ドラゴンボール』シリーズ(1984〜95年)の焼き直しのようにも見えました。
ちなみに、原作者の吾峠はやはりジャンプの『ジョジョの奇妙な冒険』(1987〜2005年)のファンだったそうで、『鬼滅の刃』にはそのテイストも盛り込まれているらしい。

現実の社会が前代未聞のコロナ禍に襲われているいま、異世界の鬼と人間が命を賭けた対決を延々と続けている『鬼滅』の世界観は、どこかで重なっているところがあるように思う。
その鬼たちに対し、家族愛を最大のモチベーションとして戦う鬼殺隊の若者たちの姿が熱烈な支持を受けていることも間違いない。

一方で、この独特の世界観、悪役の鬼たちが大変魅力的で、どこか人間臭いキャラクターであることも、本作がヒットしている大きな要因だろう。
だからと言って、続編ができたらまた観に行くかと聞かれると、やっぱりオッサンはWOWOWで放送されるまで待っとくわ、と答えるかもしれませんが。

採点は75点です。

TOHOシネマズ新宿・六本木・日比谷・渋谷・上野・日本橋などで全国ロードショー公開中

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

7『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 空と木の実の9年間』(2019年/Musubi Productions)85点
6『コリーニ事件』(2019年/独)85点
5『Fukushima 50 フクシマフィフティ』(2020年/東宝)80点
4『スキャンダル』(2019年/米)75点
3『リチャード・ジュエル』(2019年/米)85点
2『パラサイト 半地下の家族』(2019年/韓)90点
1『フォードvsフェラーリ』(2019年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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