BS1スペシャル『黒澤明の映画はこう作られた〜証言・秘蔵資料からよみがえる巨匠の制作現場〜』(NHK-BS1)🤗

100分 2020年 NHK-BS1初放送:11月8日19時〜20時50分

黒澤映画に関するドキュメントやノンフィクションなら随分観たり読んだりしてきたし、萩原健一さんの自叙伝『ショーケン』(2007年/講談社)の構成をした際にも大変興味深い逸話の数々を取材した。
それでも、こうしてまた新たな資料や証言が発見されたと聞くと、やはり飛びつかないではいられない。

今回、NHKが入手したのは、『乱』(1985年)の撮影現場を記録した30時間に及ぶUマチックVTR、4分の3インチテープが使われていることから、通称「四分三(しぶさん)」と呼ばれるカセットテープ。
さらに、『影武者』(1980年)の制作過程を記録したNHK特集『黒澤明の世界』(1979年/NHK総合)の放送されさなかった映像も初公開されている。

冒頭、『乱』の二の城の現場で、黒澤が何度もダメ出しをする場面からして迫力たっぷり。
数十回、数日間に及ぶ撮り直しは当たり前、雲の形が気に入らないと言って何日もロケを延期する、といったエピソードは萩原さんに何度も聞かされたが、こうして映像でその独裁者ぶりを観ると、改めて映画界の〝天皇〟だったのだな、と感じ入る。

一方、黒澤は映画の撮影中、一日の終わりに必ず俳優とスタッフを集め、食事と酒盛りをしながら反省会を開いていた。
この席でよく怒鳴りつけられたという萩原さんが写り込んだ『影武者』のスナップも一瞬だけ画面に出てくる。

そうした資料の合間に挟まるインタビュー映像が豪華版で、黒澤映画に出演した仲代達矢、山﨑努、井川久志、僕もお世話になった専属スクリプター・野上照代さんらが続々と登場。
さらに、同時代の名匠・山田洋次、黒澤映画に造詣の深い評論家・佐藤忠男らも独特の解釈、黒澤観を語っており、みなさんの言葉がいちいち味わい深い。

最も惹きつけられたのは山﨑努で、この人だけは黒澤明を「黒澤さん」とも「黒澤先生」と呼ばず、終始「あの方」と表現。
自分はこれまでインタビューで「あの方」について語ったことはなかった、今回が初めてでこの次はもうない、「あの方」について話すのはこれが最後です、と一言一言、噛み締めるように話す表情が非常に印象的だった。

また、単なる黒澤礼讃に偏ることなく、不遇だった晩年には精神を病み、自殺未遂事件を起こした顛末にもきちんと言及している。
100分はあっという間で、ぜひ拡大ロングバージョンの再放送を望みたい。

オススメ度A。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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