『Mank/マンク』😊

131分 モノクロ 2020年 アメリカ:Netflix

『ゴーン・ガール』(2014年)以来6年ぶりとなるデヴィッド・フィンチャーの新作で、不朽の名作『市民ケーン』(1941年)のオリジナル脚本を執筆したハーマン・ジェイコブ・マンキーウィッツの伝記映画。
しかも、マンキーウィッツを演じているのが、最近とみに円熟味を増しているゲイリー・オールドマンと、非常に興味深い顔合わせである。

『市民ケーン』はテレビやビデオで何度か観たが、監督・主演を務めた〝天才〟オーソン・ウェルズのワンマン映画という印象が強く、これまではてっきり脚本もウェルズがほとんどひとりで書き上げたものと思い込んでいた。
この名作の主人公のモデルは、当時の新聞王にして映画界にも隠然たる影響力を持っていたウィリアム・ランドルフ・ハースト、その愛人だった女優マリオン・デイヴィス。

彼らを極めて批判的、露悪的に描いた脚本を書ける人物となると、映画会社から給料をもらっている宮仕えライターであるはずがなく、ラジオドラマ『宇宙戦争』でアメリカ国民をパニックに陥れたウェルズ以外にいないはず。
ところが、この『Mank/マンク』によれば、『市民ケーン』の脚本は共同執筆者としてクレジットされているマンキーウィッツのほうがひとりで書き上げたものだった、という事実にまず驚かされた。

マンキーウィッツはもともとハリウッドの大手製作・配給会社MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)に高給で雇われた著名な脚本家であり、名監督として知られたジョセフ・L・マンキーウィッツ(トム・ペルフリー)の実兄。
本作の描写を信じるなら、当時MGMを牛耳っていたルイス・B・メイヤー(アーリス・ハワード)、そのメイヤーの後ろ盾ハースト(チャールズ・ダンス)にマンクという愛称で呼ばれ、タメ口が効けるほどの地位にあった。

そのマンクがなぜ、メイヤーやハーストと反目し合うようになり、とりわけハーストを手厳しくやっつける『市民ケーン』の脚本を書いたのか。
映画はその『市民ケーン』を彷彿とさせるタイトルクレジットから始まり、あの名作を撮影した名匠グレッグ・トーランドのルックを思わせるモノクロ画面で、マンクと彼を取り巻く人間関係の変遷を追ってゆく。

ここで重要なポイントとなるのが、1934年のカリフォルニア州知事選である。
メイヤーとハーストが共和党候補の現職フランク・メリアムを支持していたのに対し、文学畑出身のマンクはアメリカを代表する国民的作家で、社会主義者としても知られた民主党候補のアプトン・シンクレアを支持。

当時、大衆に絶大な人気を博していたシンクレアに対抗するため、メリアム陣営は映画館で上映されるニュース映画を使ってネガティヴ・キャンペーンを開始。
メイヤーとハーストもこれに協力し、MGMのスタッフと俳優を使ってシンクレアを批判する州民のインタビュー映像を捏造、ついにメリアムを勝たせることに成功する。

メリアムが当選したその夜、マンクの友人シェリー・メトカーフ(ジェイムー・マクシェーン)が、メイヤーに高額の報酬をちらつかされ、ニュース映画をでっち上げたのは自分だったとマンクに告白。
こののち、ハースト邸のパーティーに招待されたマンクは、ぐでんぐでんに酔っ払いながら、メイヤー、ハーストに〝宣戦布告〟し、居合わせたマリオンを慄然とさせる。

本作のシナリオはフィンチャーの父ジャックの遺稿で、2003年に他界する前、1990年代に書き上げられたものだという。
オーソン・ウェルズの威光によってほとんど注目されず、埋もれた存在となっていたマンクにふたたび脚光を浴びせようという情熱がひしひしと感じられるが、クライマックスのハースト邸での舌戦はいささかドラマティックに脚色され過ぎているような印象も受けた。

このシーンが事実かどうかはさておき、マンクを演じるオールドマンは大変な熱演で、ハーストに扮するダンスも貫禄十分の演技で受けて立ち、往年の古典的名作のような重厚な雰囲気に満ちている。
両者の板挟みになるマリオン役のアマンダ・セイフライド、マンキウィッツの妻サラ役のタペンス・ミドルトン、秘書リタ・アレクサンダー役のリリー・コリンズ(フィル・コリンズの娘)など、周囲を彩る女優陣がそれぞれに際立った存在感を発揮していることも付記しておきたい。

というわけで、非常に面白く、高く評価できる力作であることも確かなのだが、正直なところ、観客にとっては『市民ケーン』を観ているかいないかでかなり理解度に差が出てくるだろう。
また、1940年代のハリウッドやハーストについて、ある程度の基礎知識がないと、途中でついていくのがしんどくなるかもしれない。

僕自身、カリフォルニア州知事選のくだりにはピンとこないところがあった。
こういうところは、ちょうど現実の大統領選が終わったばかりでもあり、アメリカ人なら実感としてよくわかるのかもしれないが。

ちなみに、民主党候補のシンクレアはダニエル・デイ=ルイスがアカデミー主演男優賞を受賞した『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)の原作小説『石油!』を書いた作家である、ということは観終わったあとで思い出した。
そうした意味で、日本では観る者を選ぶ映画とも言える。

だからなのか、きのう観に行った立川のシネマ・ワンでは、お客さんは10人もいなかった。
おかげで、時節柄、気楽に鑑賞できましたが。

採点は80点です。

ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷、シネマ・ワン、アップリンク吉祥寺などで先行上映中
12月4日よりNetflixで配信スタート

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

9『TENET テネット』(2020年/米)80点
8『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年/東宝)75点
7『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 空と木の実の9年間』(2019年/Musubi Productions)85点
6『コリーニ事件』(2019年/独)85点
5『Fukushima 50 フクシマフィフティ』(2020年/東宝)80点
4『スキャンダル』(2019年/米)75点
3『リチャード・ジュエル』(2019年/米)85点
2『パラサイト 半地下の家族』(2019年/韓)90点
1『フォードvsフェラーリ』(2019年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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