『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実』(WOWOW)🤗

The Armstrong Lie
123分 2013年 アメリカ=ソニー・ピクチャーズ・クラシックス
日本劇場未公開 テレビ初放送:WOWOW 2017年4月30日 123分

ランス・アームストロングのドーピング・スキャンダルを描いた映画『疑惑のチャンピオン』(2015年)のWOWOW初放送に合わせ、抱き合わせで初放送されたドキュメンタリー映画。
しかし、いまひとつツッコミが足りない映画のほうより、こちらのほうが見応えがある。

監督アレックス・ギブニーは『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』(2005年)でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート、『「闇」へ』(2007年)で同賞受賞を果たした米ドキュメンタリー映画界の巨匠。
1960~70年代に『ローリング・ストーン』誌で活躍したフリー・ジャーナリストを描いた『GONZO〜ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて〜』(2008年)でも評判を取った(ぼくは面白くなかったけど)。

本作はそもそも、それだけの実績を持つギブニーが、アームストロングのストーリーを真実と信じ、2009年のツール・ド・フランスに復帰した姿を追って、感動的なドキュメンタリーにするつもりで製作に取りかかった作品だった。
アームストロングが敗れたときには本人以上に落胆し、「あんたのドキュメンタリーを台無しにしてしまったな」と、ほかならぬアームストロングに慰められていた姿が多数の周辺関係者に目撃されているという。

その矢先、ドーピング・スキャンダルが表面化、アームストロング自身もオプラ・ウィンフリーのトーク番組で告白に踏み切ったことにより、本作は視点も論点も180度異なるドキュメンタリーに作り変えざるを得なくなったのだ。
一連の経緯についてはギブニー自身がキャロリン・フロストによるインタビュー記事(2014年)で語っている通りだが、前代未聞の方向転換を余儀なくされながら、よくぞこういう完成形にたどり着けたものだと感心する。

内容はすでに知っていること、伝えられていることがほとんどだったが、それでも、単独インタビューに応じてドーピングの内幕を語るアームストロングの独白は実に面白い。
チームの監督だったヨハン・ブリュイネールをはじめ、アームストロングを告発した元チームメート、フロイド・ランディス、ジョージ・ヒンカピー、フランキー・アンドリューとベッツィー夫人のインタビューなど、スポーツ・ジャーナリズムにおいても貴重な映像が満載である。

ジャーナリズムの側からも、最初に批判記事を書いたサンデー・タイムスのデヴィッド・ウォルシュ、『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』(2012年/講談社)の著者タイラー・ハミルトン&ダニエル・コイルらが登場。
アイルランド人の元ロードレーサーでジャーナリスト、デビュー作『ラフ・ライド アベレージ・レーサーのツール・ド・フランス』(1999年/未知谷)でサイクル・スポーツ批判の草分け的存在となったポール・キメイジが、会見場でアームストロングと激しくやり合う貴重な場面も収められている。

終盤にはアームストロングに引導を渡したUSADA(全米アンチドーピング機構)の会長トラビス・タイガートも一連の調査の経緯について証言。
ランディスやヒンカピーに対し、アームストロングに関する情報を提供してくれれば、永久追放になるところを半年間に〝減刑〟してやるという取引を持ちかけたことを認めた一方で、「私はアームストロングにも同じ条件を提示した」と明かしている。

ただし、アームストロングは本作の最後で、「タイガートはそんなことなど言っていない」とこれを否定。
当時のUCI会長ハイン・フェルブルッゲンもインタビューには応じておらず、「まだ全体像が明らかになったわけではない」というアームストロングの言葉通り、どこか割り切れない、モヤモヤした印象を残して映画は終わる。

最も興味深いのは、ウソをついているときも、真相を告白しているときも、インタビューにおけるアームストロングの表情がまったく変わらないことだ。
彼はいつ、どのような状況においても、「いま自分がしゃべっていることこそが唯一無二の真実なのだ」と信じ切っているようで、それが過去の発言とどれだけ矛盾していてもまるで気にかけていないように見える。

アームストロングをソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)と報じたメディアもあったが、アームストロング自身はそうした見方を嘲笑うように否定している。
いまではあまり使われなくなった諺に「天才と気狂いは紙一重」という言葉があるが、アームストロングこそはスポーツ界におけるその生きた見本だったのかもしれない。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

113『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)B※
112『陽だまりのグラウンド』(2001年/米)B※
111『ホテル・ムンバイ』(2019年/豪、印、米)A
110『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年/松竹)B
109『閉鎖病棟−それぞれの朝−』(2019年/東映)C
108『真実』(2019年/仏、日)A
107『氷の微笑』(1992年/米)B
106『チャーリーズ・エンジェル』(2019年/米)C
105『FBI:特別捜査班 シーズン1 #22対決の時』(2019年/米)C
104『FBI:特別捜査班 シーズン1 #21隠された顔』(2019年/米)B
103『FBI:特別捜査班 シーズン1 #20エジプトの要人』(2019年/米)B
102『轢き逃げ 最高の最悪な日々』(2019年/東宝)B
101『蜜蜂と遠雷』(2019年/東宝)B
100『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(1991年/米)A
99『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
98『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
97『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
96『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
95『脱出』(1972年/米)A※
94『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
93『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
92『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
91『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
90『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
89『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
88『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
87『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
86『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
85『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
84『サンセット大通り』(1950年/米)A※
83『深夜の告白』(1944年/米)A
82『救命艇』(1944年/米)B※
81『第3逃亡者』(1937年/英)B※
80『サボタージュ』(1936年/英)B※
79『三十九夜』(1935年/英)A※
78『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
77『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
76『大いなる勇者』(1972年/米)A※
75『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
74『インターステラー』(2014年/米)A
73『アド・アストラ』(2019年/米)B
72『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
71『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
70『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
69『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
68『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
67『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
66『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
65『復活の日』(1980年/東宝)B
64『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
63『ロケットマン』(2019年/米)B
62『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
61『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
60『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
59『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
58『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
57『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
56『女王蜂』(1978年/東宝)C
55『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
54『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
53『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
52『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
51『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
50『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
49『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
48『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
47『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
46『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
45『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
44『ザ・ボート』(2018年/馬)B
43『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
42『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
41『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
40『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
39『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
38『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
37『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
36『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
35『下妻物語』(2004年/東宝)A
34『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
33『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
32『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
31『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
30『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
29『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
28『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
27『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
26『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
25『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
24『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
23『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
22『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
21『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
20『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
19『大脱出2』(2018年/中、米)D
18『大脱出』(2013年/米)B
17『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
16『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
15『グリーンブック』(2018年/米)A
14『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
13『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
12『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
11『前科者』(1939年/米)C
10『化石の森』(1936年/米)B
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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