『真実』(WOWOW)🤗

La vérité/The Truth 108分 2019年 フランス、日本=ギャガ

現代の名匠となった是枝裕和が『万引き家族』(2018年)でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した直後、フランスに腰を据え、同国を代表する女優カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュを主役に迎えて撮った作品。
日本ふうに言えばいわゆる「受賞第1作」で、日本人監督作品としては初めてヴェネツィア国際映画祭のオープニング作品にも選ばれた。

これだけの顔ぶれを演出したのだから、是枝さんはさぞかしフランス語もペラペラなんだろうな、すごい監督さんだな、と感心していたら、すべて通訳を介して演技をつけていたそうである。
しかし、そういう環境でこういう心に染みる傑作を完成させたのだから、それはまた別の意味ですごいことであり、良い作品を作るために必要なコミュニケーション能力とは何なのだろう、と改めて考えさせられた。

ドヌーヴ演じるフランスの大女優ファビエンヌ・ダジュヴィルが、新たな主演作『母の記憶へ』を撮影中、初の自伝『真実』を出版。
アメリカに住んでいた脚本家の娘リュミール(ビノシュ)、その夫ハンク・クーパー(イーサン・ホーク)、孫娘シャルロット(クレモンティール・グルニエ)がお祝いのために里帰りしてくる。

しかし、帰国して初めて母の自伝を読んだ娘は、「真実なんかどこにも書いてないじゃないの」と反発。
リュミールが幼かったころ、ファビエンヌは必ず学校への送り迎えを欠かさず、娘の笑顔に癒された、などと書いているが、実際にはリュミールの面倒は「サラ」という女性に任せきりだった、と言い募る。

このサラが何者なのか、最初のうちは詳しく説明されず、恐らくファビエンヌの女優仲間か妹、つまりリュミールの叔母あたりだろうかと見当をつけながら観るしかない。
娘に食ってかかられたファビエンヌは、「私の自伝なんだから何を書こうと自由でしょう」と取り合わず、『母の記憶へ』の撮影現場にマネージャー代わりとして同行させる。

やがて、サラがファビエンヌ以上に将来を嘱望されていた女優だったことが、母娘の会話などから、観る側にもわかってくる。
しかも、ファビエンヌの若いころの代表作は、当初サラが出演する予定になっていたのに、ファビエンヌが監督と寝て役を奪っていたのだ。

しかし、そういう過去をいくらリュミールに責め立てられても、やはりファビエンヌはまったく動じず。
「サラのほうが演技がうまかろうが、そのサラから役を取るために監督と寝ようが、いま女優として名を成しているのはこの私よ」と開き直って、微塵も恥じるところがない。

ファビエンヌはドヌーヴのミドルネームでもあり、ヘビースモーカーで昼間からウイスキーを飲んでいる彼女のキャラクターは、ある程度実際のドヌーヴが下敷きになっているという。
どこまでも傲岸不遜な彼女は、アメリカでテレビ俳優をしているリュミールの夫ハンクに対しても、「テレビ用の演技なんかイミテーションだわ」とピシャリと言い放って平気な顔だ。

そんなファビエンヌが撮影中の『母の記憶へ』は、タイムパラドックスをテーマとしたSF映画である。
老いることを嫌った母親が宇宙に移り住み、7年置きに若いままで地球に帰ってくると、相対性理論によって娘のほうが年齢を重ねて、最後には母親よりも年老いてしまう。

ファビエンヌの役はその年老いた娘で、年齢が逆転した母と娘が心を通わせ合うシーンがクライマックス。
そういう撮影の進行状況とファビアンとリュミールの親子関係の変化を重ね合わせながらストーリーが展開する。

やがて、ファビエンヌがようやくリュミールと仲直りして、本当の感情を露わにしたと思ったら、ここではたと我に返ったように、「しまった、これ、きょうの撮影でやるんだった。明日、撮り直しできないかしら」とぼやく場面が印象的だ。
いったい、ファビエンヌの正体はあくまでもプロの女優なのか、それとも彼女の中には心優しき母性が隠されているのか、最後まで観ないとわからない、いや、観終わってからも本当はどちらなのだろうと、首を捻りたくなる余韻も残る。

ファビエンヌのライバルだった「サラ」の正体は是枝監督がインタビュー記事で明かしており、実は撮影中にドヌーヴが言い出したアイデアだという
是枝監督自身による脚本は布石の打ち方が絶妙で、リュミールの夫のハンク、孫娘のシャルロット、『母の記憶へ』でファビエンヌの母親を演じるマノン・ルノワール(マノン・クラヴェル)など、脇役たちも要所要所で印象に残る存在感を発揮している。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

111『氷の微笑』(1992年/米)B
110『チャーリーズ・エンジェル』(2019年/米)C
109『FBI:特別捜査班 シーズン1 #22対決の時』(2019年/米)C
108『FBI:特別捜査班 シーズン1 #21隠された顔』(2019年/米)B
107『FBI:特別捜査班 シーズン1 #20エジプトの要人』(2019年/米)B
106『轢き逃げ 最高の最悪な日々』(2019年/東宝)B
105『蜜蜂と遠雷』(2019年/東宝)B
104『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(1991年/米)A
103『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
102『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
101『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
100『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
99『脱出』(1972年/米)A※
98『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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