『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(VHS)🤗

One Cup of Coffee/Pastime 
95分 1991年 アメリカ 日本公開:1993年 日本ヘラルド

某新聞社の先輩記者YさんがFacebookで紹介していたアメリカ製野球映画VHS版第3弾。
いま改めて振り返ると、本作がアメリカ本国で公開された1991年当時は、ケヴィン・コスナー主演の『さよならゲーム』(1988年)、『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)などが好評を博し、ハリウッドで野球映画製作が静かなブームとなっていたころである。

本作と同じ1991年には前項『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』、翌92年にはベーブ・ルースの生涯を描いた『夢を生きた男 ザ・ベーブ』も公開されている。
この『ワン・カップ・オブ・コーヒー』もそうした時代に製作された作品の1本で、野球と映画双方のファンなら記憶にとどめておきたい佳作と言っていい。

日本では米本国の2年後、1993年に劇場公開されており、配給会社の日本ヘラルドからセル&レンタル兼用ビデオ(画像)も16480円(税込)と、当時のこととて大変高価な値段で発売された。
『栄光のマウンド』という副題は野球映画であることを強調するため、ビデオ用に付けられたものだが、売れ行きは芳しくなかったらしく、『ドリーム・ゲーム』と同様、DVD化はされていない。

舞台は1957年、マイナーリーグの最下部Dリーグに所属し、中央カリフォルニアをホームとするトライシティー・スティーマーズ。
主人公は先発ローテーションの一角を担っている41歳のチーム最年長投手ロイ・ディーン・ブリーム(ウィリアム・ラス)である。

チームは連戦連敗、スタンドはガラガラ、オーナーのピーター・ラポルテ(ジェフリー・タンバー)が「観客は毎晩8人、ホットドッグの売り子も雇えなくて、オレが自分でやらなきゃならん」と嘆いている。
経営が苦しいことから、ラポルテは年俸の高いディーンをクビにしようと考えているが、ディーンの旧友でもある監督のクライド・ビグビー(ノーブル・ウィリンガム)は懸命に押しとどめている。

そんなスティーマーズに、17歳の黒人投手タイロン・デブリー(グレン・プラマー)が入団。
時代が時代だけに、白人選手の先輩から差別的な扱いを受ける中、ディーンだけは彼に目をかけ、弟か息子のように可愛がる。

ディーンがデブリーに自販機のコーラをおごり、自分がかつて一度だけメジャーに昇格、ピンチでリリーフ登板を命じられ、スタン・ミュージアルに満塁本塁打を打たれたという思い出を語る場面がいい。
ディーンがメジャーのゲームでプレーした時間はほんの数分で、メジャーリーグの慣用句で「コーヒー1杯(ワン・カップ・オブ・コーヒー)飲む間」と言われており、これがタイトルの由来。

もともと人見知りで、入団早々イジメにあったことからすぐにうつむいてしまう癖のあるデブリーに、「地面ばかり見るな、オレの目を見て話せ」とディーンは諭す。
そして、自分が大リーガーだった僅かな期間、メジャーの打者に通用した唯一の変化球〝プラマードリーム〟を教え始める。

これは一時スプリット・フィンガー・ファストボールと言われた球種で、ストレート並のスピードボールを打者の手元で微妙に落とす変化球。
「投手のジャッキー・ロビンソンになれ」とディーンが励ます中、デブリーが倉庫の壁に描いたストライクゾーンに向かって投げ続けるシーンがまた印象に残る。

そうした中、オーナーのラポルテは監督のビグビーに対し、自分の家にチームの選手やスタッフを招待してパーティーを開くから、その最中に今度こそディーンに解雇を告げるよう迫る。
そうとは知らないディーンは、馴染みにしていたパブのバーテンダー兼経営者アイネス(ディーアドル・オコンネル)を誘ってパーティーに出席。

ほかの選手が妻やガールフレンドを連れている中、派手な身なりをしたアイリスはいかにも場違いで、「カネを払って同伴してもらったのか」などと陰口をたたかれる。
何とも苦い雰囲気に満ちたパーティー会場で、自分がクビになることを知ったディーンは、ひとりでラポルテの家から出て行った。

※ここから先、重要なネタバレを含みます。
僕としては、できれば本作を観てから読んでほしいのですが、本作はDVD化されていないので、あえて結末まで記録しました。

劇場公開時のポスター&チラシ

夜中にひとりでスティーマーズのホーム球場にやってきたディーンは、照明を点けてマウンドに立ち、バッターボックスに置いたネットに向かって黙々とピッチングを続ける。
高血圧症の持病があったディーンは、発作を起こしてマウンドに倒れ、そのままひとりで息絶える。

ディーンの葬儀が行われた日の試合で、デブリーがマウンドに向かおうとすると、彼をいじめていた先輩投手がニヤニヤ笑いながら「ロイのためにも頑張れよ」と毒づく。
怒ったデブリーがその投手に殴りかかり、周りの選手が割って入ろうとすると、ビグビーは逆に「やらせてやれ」と、喧嘩を止めようとした選手を制止する。

ラストシーン、晴れてメジャー昇格を果たし、大観衆のスタンドをバックに投げるデブリーの姿を映し出して、映画は終わる。
この幕切れはいささか作り物めいていて、むしろデブリーがメジャーに昇格し、ディーンと同じように「コーヒー1杯ぶん」の時間で終わるかどうか、ご想像にお任せします、という形で幕切れにしたほうがよかったように思った。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

103『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
102『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
101『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
100『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
99『脱出』(1972年/米)A※
98『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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