『洞爺丸はなぜ沈んだか』上前淳一郎😁😭😢🤔🤓😱

文藝春秋 254ページ 第1刷:1980年11月25日 定価1000円/古書

不勉強ながら、ごく最近、拝読するようになり、『太平洋の生還者』(1976年/文藝春秋)、『やわらかなボール』(1982年/文藝春秋)などで感銘を受けた上前淳一郎氏のノンフィクション作品。
阿部牧郎氏の野球小説もそうだが、世の中には随分と多くの佳作、秀作、名作が埋もれたままになっているのだな、と思わずにはいられない。

1954(昭和29)年9月26日、函館港を襲った台風マリー(15号)により、青函連絡船・洞爺丸をはじめとする5隻の船が沈没、1430人の犠牲者を出した日本海運史上最大の海難事故が描かれている。
著者は朝日新聞社の記者だったころ、青森支局に勤務していた時代からこの大惨事に関する情報を収集、存命だった航海士や乗客、及びその関係者に取材して回り、本書を書き上げたという。

洞爺丸事故が発生後も長らく繰り返し語られてきたのは、この事故にいくつものif(もしも)があるからだ。
もし近藤船長が函館市の停電を過剰に意識して15時10分の出港を見合わせなかったら、もし出港が遅れた間に米軍客用の寝台車が積み込まれなかったら、そして閉塞前線による突然の晴れ間を近藤船長が台風の目と勘違いしなかったら。

現在のようにインターネット通信網が発達し、気象衛星による画像が逐一スマホで確認できる時代であれば、決して発生することのない事故だった。
そういう意味で、当時の観測技術の限界が招いた大惨事とも言えよう。

船上という限定された空間で近藤船長をはじめ、様々な人間たちが大いなる悲劇へと向かうドラマは、たとえ結末がわかっていても読み応えがあり、わかっているからこそ悲壮感や緊張感がつのる。
ただし、本作では著者が劇的に描写しようとして筆が滑ったのか、仮名で登場する原子勇・節子夫婦、青山妙子のくだりがあまりに小説的な描写になっており、作品全体から浮いている感も否めない。

😁😭😢🤔🤓😱

2020読書目録
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※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録

14『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』(1995年/中央公論新社)🤔🤓
13『「妖しの民」と生まれきて』笠原和夫(1998年/講談社)😁😭😢🤔🤓
12『太平洋の生還者』上前淳一郎(1980年/文藝春秋)😁😭😳🤔🤓😖
11『ヒトラー演説 熱狂の真実』(2014年/中央公論新社)😁😳🤔🤓
10『ペスト』ダニエル・デフォー著、平井正穂訳(1973年/中央公論新社)🤔🤓😖
9『ペスト』アルベール・カミュ著、宮崎嶺雄訳(1969年/新潮社)😁😭😢🤔🤓
8『復活の日』小松左京(1975年/角川書店)🤔🤓
7『感染症の世界史』石弘之(2019年/角川書店)😁😳😱🤔🤓
6『2000年の桜庭和志』柳澤健(2020年/文藝春秋)😁🤔🤓
5『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著、鼓直訳(1984年/集英社)😳🤓😱😖
4『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著、土岐恒二訳(1984年/集英社)😁🤓🤔😖 
3『らふ』森下くるみ(2010年/青志社)🤔☺️
2『最期のキス』古尾谷登志江(2004年/講談社)😢😳
1『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』奥山和由、春日太一(2019年/文藝春秋)😁😳🤔

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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