『ラスト、コーション』(WOWOW)😉

色,戒/Lust,Caution 158分 R-15(劇場公開版R-18) 2007年
 アメリカ、台湾、香港=フォーカス・フィーチャーズ 日本配給:ワイズポリシー 2008年 

台湾出身の監督アン・リーは『ブロークバック・マウンテン』(2005年)、『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(2012年)でアカデミー監督賞を2回受賞しているが、彼の最高傑作はこの『ラスト、コーション』ではないか。
第二次世界大戦の最中、日本軍の占領下にあった上海と香港で、傀儡政権の特務機関員と、彼を暗殺しようとする若き女性工作員との悲恋を描いている。

主人公ワン・チアチー(王佳芝=タン・ウェイ)は上海のインテリ家庭に生まれ育った女子大生。
日中戦争の戦禍を逃れて留学していた香港の嶺南大学で、クァン・ユイミン(鄺祐民=ワン・リーホン)に誘われて抗日闘争を主張する劇団に入り、特務機関幹部の暗殺計画に加わる。

彼らの標的は日本軍の傀儡・汪兆銘政権下で抗日運動を厳しく弾圧している特務機関の幹部イー(易=トニー・レオン)。
チアチーは劇団員オウヤン・リンウェン(欧陽霊文=ジョンソン・イェン)と夫婦であることを装ってイー夫人(ジョアン・チェン)に接近、イーを暗殺する機会を伺う。

異様に警戒心の強いイーはなかなかチアチーを寄せ付けないが、チアチーを見つめる眼差しが激しい欲望と情熱を感じさせる、というあたりはトニー・レオンのうまさだろう。
レオンとタンが目を見交わし、静かな会話を重ねるくだりは、のちに展開される激しいファックシーンの〝前戯〟にもなっている。

ユイミンはチアチーの夫が仕事でシンガポールへ行ったことにして、チアチーがイーの愛人になるよう仕向ける。
チアチーはまだ処女だったので、仲間内で唯一女性経験のあるリャン・ルンション(梁潤生=クー・ユールン)に初体験をすませ、セックスの手ほどきを受けるあたり、青臭さと痛々しさが内混ぜになった独特の雰囲気が漂う。

しかし、チアチーがイーを籠絡する寸前、イーは上海へ異動となり、ユイミンの計画も特務機関副官のツァオ(チェン・ガーロウ)に露見してしまった。
ユイミンは脅しにかかってきたツァオを刺し殺し、チアチーはその場から逃げ出し、この暗殺団はいったん解散。

それから3年後、上海に舞い戻っていたチアチーはユイミンと再会。
自分たちの計画は国民党に筒抜けで、ツァオ殺しの後始末もしてもらった、もう一度イーを暗殺するのに手を貸してくれ、と持ちかける。

こうして3年ぶりに出会ったイーとチアチーは、このときを待っていたかのように、たちまち激しく愛し合う仲になる。
劇場公開時、大変な評判になった濃厚なラブシーンは、美しいというよりも生々しく、ボカシのかかったWOWOW放送版でも十分に興奮させられる。

色白のタンが当時の女性らしく、脇毛を生やしているところにハッとさせられた男性の観客は少なくないだろう。
これ以上詳しい感想を書くのは品がないのでやめておきますが。

日本料理店の宴会用広間でふたりだけになったとき、チアチーが中国語で『天涯歌女』をワンコーラスしっかり歌い切る場面も素晴らしい。
このあと、イーがチアチーのために6カラットのダイヤの指輪を作ってあげる、という趣向は、ちょっと成金趣味的で、レオンのキャラクターには合わないような気もしたけれど。

原作は中国の作家アイリーン・チャン(張愛玲)の同題短編小説で、タンが演じたチアチーは実在した工作員テン・ピンルー(鄭蘋茹)がモデルになっているという。
中国人の父と日本人の母の間に生まれ、モデルとして雑誌の表紙を飾るほどの美貌の持ち主だったピンルーは、本作のように特務機関幹部の暗殺を試みて失敗、22歳の若さで銃殺された。

基本的にはメロドラマなのだが、チアチーをはじめとする若者たちが戦争と民族間の争いに翻弄される姿がじっくりと描き込まれ、独特の余韻を残す。
終戦から75年、いまこそ再評価されてもいい作品だろう。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る