『救命艇』(スターチャンネル2)😉

Lifeboat 97分 1944年 アメリカ=20世紀FOX 日本劇場未公開

第二次世界大戦の最中、『海外特派員』(1940年)や『逃走迷路』(1942年)と同様、戦意昂揚映画として製作されたヒッチコック作品。
原作はアメリカの文豪ジョン・スタインベックで、今日でも目を見張らされるのは、舞台を救命艇の上だけにほぼ限定したスタイルである。

ヒッチコックには、アパートの一室のみで展開するストーリーを全篇ワンシーン・ワンカットで撮影した『ロープ』(1948年)という作品もあったが、手法自体が主役になってしまって本筋の殺人事件に対する興味が殺がれた憾みがあり、サスペンス映画としては成功していなかった。
その点、本作は救命艇に乗り合わせた8人の生存者が繰り広げる人間ドラマ、という設定に無理がなく、こちらも最初から前のめりになって彼らのサバイバル・ドラマに集中できる。

開巻、貨客船の煙突が大映しになり、タイトル・クレジットがスタートするとカメラが引き始める。
クレジットが終わるころ、てっきり船の全景が映し出されるのだろうと思っていたら、煙突から下はすでに沈んでいて、煙突が海中に没したところから本篇がスタート。

海面の上をカメラがパンして、船の残骸やら乗客の衣服やバッグが映る。
そこへさっそく救命艇が出てくると、その上で髪をアップに結い、きちんとスーツを身にまとったタルラ・バンクヘッドが、クールな表情で化粧を直している、という人を食った出だしが面白い。

このボートに、海を漂っていた7人の生存者が次から次へと這い上がってくる。
最後に泳ぎついた8人目が貨客船を沈めたUボートのドイツ兵ウォルター・スレザックで、彼を船から降ろすべきか、乗せておくべきかとアメリカ人たち7人が侃々諤々の議論を展開。

ドイツ語を話せるタルラが取りなしてボートにとどまったスレザックは、Uボートの乗組員だっただけあり、救命艇の操縦や足が壊疽に冒された技師の手術など、船長兼船医ばりの特殊技能を発揮してアメリカ人たちに大いに貢献。
ついにはみんながスレザックの意見を受け入れ、彼の指示する方向へ艇を向けるのだが、実はこのドイツ兵には秘かな企みがあった。

サスペンス映画というより極限状況における人間関係を描いたヒューマン・ドラマで、ジョン・ヒューストン監督、ハンフリー・ボガート主演の『黄金』や『キー・ラーゴ』(いずれも1948年)を彷彿させる。
ドイツ兵が正体を現してからが意外に盛り上がらず、オチもいささか腰砕けながら、今日でもちゃんと楽しめる映画になっているのはさすがヒッチコックと言うべし。

ただし、昔の映画だけに、食料はどこにしまってあったのか、排泄はどうやってすませているのか、都合よく端折られているディテールも少なくない。
いまとなっては看過し難い欠点となっているが、これは仕方のないところか。

お勧め度はB。

有名なヒッチコックのカメオ出演、〝苦肉の策〟のワンカット😁

旧サイト:2015年06月9日(火)付Pick-upより再録

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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