『三十九夜』(WOWOW)🤗

The 39 Steps 88分 1935年 イギリス=ゴーモン・ブリティッシュ
日本配給:東和商事 1936年 日本リバイバル配給:日本ヘラルド 1996年

ヒッチコック作品は名作としての評価が定着しているハリウッド時代より、イギリス時代からアメリカ時代初期のほうが個人的には好きだ。
『第3逃亡者』(1937年)、『バルカン超特急』(1938年)、『海外特派員』(1940年)、『逃走迷路』(1942年)など、巻き込まれ型の冒険物語がとくに面白い。

1935年に公開されたこの『三十九夜』は、そんな新進気鋭監督時代の代表作である。
ファンからヒッチコック・ベスト10を募ったら、ハリウッド時代を含めても上位に入ってくるのではないか。

開巻、カナダ帰りの主人公リチャード・ハネイ(ロバート・ドーナット)がミュージック・ホールでミスター・メモリー(ワイリー・ワトソン)なる芸人のパフォーマンスを楽しんでいる。
この芸人は何でも覚えている図抜けた記憶力が売り物で、客が矢継ぎ早にぶつけてくる質問に答えていたところ、突然発砲事件が発生。

大騒ぎとなったホールから駆け出したハネイは、通りすがりの女性アナベラ・スミス(ルースー・マンハイム)に助けを求められる。
ハネイがアナベラを自分のアパートに連れてきたら、私はスパイで命を狙われている、私を追っている一味の首領には小指がなく、その男はスコットランドに潜んでいると告白。

アナベラを自分の寝室に寝かせ、自分はカウチで一夜を明かしたハネイが翌朝目を覚ますと、アナベラは背中をナイフで刺されて殺されていた。
警察にアナベラを殺したと勘違いされたハネイは、スコットランドにいるという秘密組織の首領を探し出すため、特急フライング・スコッチマンに乗って逃走を開始。

ここから先はまさに息をもつかせぬ面白さで、走り続ける列車の中でハネイと警察官たちが追いつ追われつ。
通りすがりの女性パメラ(マデリーン・キャロル)に助けを求めたら、逆に彼女に警察官に売られてしまった。

何とか追っ手を振り切ったハメイは、アナベラが持っていた地図を頼りに、ジョーダン教授(ゴッドフリー・タール)という人物の屋敷に辿り着く。
まさかこの紳士が悪漢たちの親分ではあるまいと思っていたら、彼の右手には小指がなかった。

ハネイが慌てて屋敷から脱出し、地元の警察署に駆け込んで事情を話すと、逆に殺人容疑で逮捕されてしまう。
ここからも飛び出して選挙演説が行われている公会堂へ紛れ込み、応援演説に来た人物と間違われて一席ぶたざるを得なくなる、という笑わせどころを挟んでいるのがヒッチコックならではの演出の妙だろう。

どうにか逃げ切ったと一安心したのも束の間、パメラにばったり再会したハメイは、またもや警察に引き渡される。
ところが、ハメイだけでなくパメラにも手錠をかけた刑事たちは、実はジョーダン教授が放った秘密組織の一味だった。

ここからさらに話が二転三転して、舞台は終盤、あの発砲事件が起こったミュージック・ホールへ戻ってくる。
90分にも満たない上映時間の中で様々な見せ場を矢継ぎ早に繰り出し、どうやって決着させるのかと固唾をのんで見守っていたら、思わず拍手したくなる見事なオチが待っていた。

ちなみに、ミスター・メモリーというキャラクターは原作にはなく、ヒッチコック独自のアイデアだったらしい。
いまさらながら、サスペンスの神様はやっぱりスゴイ! と感嘆させられました。

お勧め度はA。

旧サイト:2016年04月17日(日)付Pick-upより再録

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る