『運命は踊る』(WOWOW)😉

פוֹקְסטְרוֹט/Foxtrot 112分 2017年 イスラエル、ドイツ、フランス、スイス
日本配給:ビターズエンド 2018年

開巻、自宅マンションの玄関で抽象画を背景にした女性(サラ・アドラー)がクローズアップで映され、彼女が向かい合っているらしい人物に「フェルドマンさん」と声をかけられた途端、その場に倒れ込んでしまう。
続いて、今度は男性(リオル・アシュケナージ)のクローズアップになり、彼は女性の夫、自宅にやってきたのはイスラエル軍の兵士で、この夫婦の息子が戦死したと告げにやってきたことがわかる。

このフェルドマン家の主はミハエル、倒れた妻はダフネ、戦死したと言われた息子はヨナタン。
夫婦はともに精神疾患を抱えているらしく、ダフネはベッドでふさぎ込んだまま、ミハエルは兵士の説明に激昂しては食ってかかり、次第に彼らが抗鬱剤を服用しており、かつてはともにマリファナを吸う仲だったことも明らかになる。

兵士たちは葬儀の手順を詳しく説明するが、遺体の状態や戦死した経緯については「知らされていない」と明かそうとせず、ミハエルは怒りを抑えられない。
そうこうするうち、戦死したのは同姓同名の兵士であり、ヨナタンは無事であることが判明すると、ミハエルは「息子を家へ帰してくれ」と軍に要求する。

ここから、イスラエル北部の国境で警備の任務についているヨナタン(ヨナタン・シライ)へと場面が転換。
一緒に勤務している兵士たち(デケル・アディン、シャウル・アミール、イタイ・エクスロード)に、ヨナタンは父ミハエルとのこんな思い出を語って聞かせる。

「親父(ミハエル)は子供のころ、本屋でベルボーイ・マガジン(プレイボーイ・マガジンを模した雑誌)1970年1月号を見つけた。
表紙はピンナップガールのヌードで、(イスラエルの法律で)乳首は×印で潰されていたけど、中身のグラビアを見たら×印がなかったんだ。

親父はベルボーイがほしくてたまらず、我が家に代々伝わる貴重な聖書を本屋に持って行き、ベルボーイと交換してもらった。
その聖書はフェルドマン家で息子が兵役に出るたび、親から子へ譲り渡すことになっていて、お祖母ちゃんが絶対に売っちゃいけないって言ってたものだったんだけどね。

学校でヒーローになった親父が、そのベルボーイを友だちに回覧して、自分の手元に戻ってきたら、ベトベトでページが開けなくなっていたそうだよ(笑)。
そして、僕が兵役に出るとき、親父はネットでベルボーイ1970年1月号を取り寄せ、聖書の代わりに僕に手渡した。

『おまえの息子が兵士になったら、これを渡してやれ。
間違ってもこれに発射してぶっかけたりするなよ』(笑)」

こうしたユーモラスな挿話をはじめ、随所で人生における運命や巡り合わせの見えざる力を感じさせる映画である。
監督のサミュエル・マオズはイスラエルを代表する名匠で、顔のクローズアップを多用した演出力に加え、フェルナンド家の絵、ヨナタンが描くイラスト、国境を通過していくラクダなど、象徴としての小道具の使い方も非常に巧み。

クライマックスではヨナタンの運命を変える事件が起こり、ミハエルとダフネが息子の帰りを待っている中、あるフランス映画の名作を彷彿とさせる悲劇的なエンディングが訪れる。
ただし、後半以降、割と早く結末が予想できてしまうのが惜しい。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの採録

49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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