『ザ・ラウデスト・ボイス―アメリカを分断した男―』(WOWOW)🤗

The Loudest Voice 全7話:各話55分 2019年 アメリカ=ショータイム  

最近、いや、ここ20年ぐらいの間で、これほど面白く、のめり込んで観たテレビドラマはほかにない。
テレビコメンテーターがコロナ禍について結論の出ない議論をダラダラと続けているだけの情報番組、現実逃避しようと鑑賞してもかえって現実の厳しさを痛感させられる内容空疎な娯楽映画より、よっぽど見応えがある、時間も忘れる。

ラッセル・クロウ演じる主人公ロジャー・エイルズは、保守系ニュース番組FOXニュースを視聴率全米1位に押し上げた辣腕CEO。
女性キャスターに散々セクハラをしたあげく、ついに元ミス・アメリカに訴えられて失脚した顛末は、今年公開された映画『スキャンダル』(2019年)でも描かれた。

『スキャンダル』では名優ジョン・リスゴーがエイルズを演じていたが、主人公がシャーリーズ・セロン演じるFOXの看板キャスター、メーガン・ケリーで、上映時間による制限もあったため、エイルズはただ単なる権力を笠に着たセクハラジジイという印象しか残らない。
その点、この『ザ・ラウデスト・ボイス』は1話55分の全7話、計385分のミニシリーズで、しかもほとんどクロウが出ずっぱりだから、エイルズがどういう人物だったのか、実によくわかる。

エイルズはもともと、ニクソン大統領のブレーンとして知られ、テレビ用の演出を手がけていた保守派の大物プロデューサーだった。
しかし、自らの暴言が仇となって1995年まで務めていたCNBCを辞任せざるを得ず、非競争条項によって他局への転職まで阻まれてしまう。

ところが、CNBCのトップを言葉巧みに誘導し、条項の隙を突いて、ルパート・マードック(サイモン・マクバーニー)が1996年に開局するFOXニュースのCEOに就任。
必要とあらば朝4時に幹部会議を招集し、ルパートの長男でCOOを務めるラクラン(バリー・ワトソン)も脇に押しやり、ついにはルパートから最終編集権を勝ち取って保守系ニュースの制作に邁進する。

2001年の911同時多発テロでは、世界貿易センタービルから次々に人々が飛び降りる映像を他局が放送自粛する中、「流せ!ヨソが流してないんならこれを見られるのはウチだけだ!それが真実の報道だ!」と命令。
ブッシュ大統領の上級首席顧問カール・ローブから、このテロをイラク攻撃の口実にすると告げられると、すぐさま喜んで情報操作に手を貸すことを請け合う。

当然、局内では「イラクが大量殺戮兵器を持っているという根拠はない」と反対の声があがったが、エイルズはまったく耳を貸そうとしない。
これを契機に社内のあちこちに監視カメラを設置し、自分に対して批判的、反抗的な言動を行う者がいたら、ただちに報告するよう秘書のジュディ・ラテルザ(アレクサ・パラディノ)に指示する。

私生活では、CSNBC時代のエイルズの右腕で、エイルズの辞任後に解雇されたエリザベス(シエナ・ミラー)と結婚。
ひとり息子のザックをもうけると、家で毎朝国旗を掲揚させるという保守教育を施し、来るべき社会主義・共産主義陣営との戦争に備えて、基準よりも深い地下にシェルターを作る。

『スキャンダル』でネタにされたセクハラも、こちらのほうがかなりエグい描写になっており、ワシントン情報収集担当の女性記者ローリー・ルーン(アナベル・ウォーリス)に社内でフェラチオを強要したり、愛人の後釜となる若い女性キャスターの紹介を迫ったり。
堪忍袋の緒を切った元ミス・アメリカの女性キャスター、グレッチェン・カールソン(ナオミ・ワッツ)がエイルズをセクハラで訴えるくだりも詳細に描かれていて興味深い。

エイルズは幼少期に父親から虐待を受け、血友病で20歳までしか生きられないと言われており、77歳で死ぬまで血液凝固因子製剤を服用していたことは初めて知った。
最終的にFOXを辞任せざるを得なくなったとき、マードック親子から支払われた退職金が4000万ドルと、あまりにべらぼうだったことにも驚かされた。

増量と特殊メイクでエイルズを熱演したクロウはゴールデングローブ賞の主演男優賞を獲得。
アカデミー主演男優賞を受賞した『グラディエーター』(2000年)、ゴールデングローブ賞主演男優賞の『ビューティフル・マインド』(2001年)の主役と同一人物とはとても思えませんでした。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る