『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(WOWOW)😉

Shock and Awe 91分 2018年 
アメリカ=ヴァーティカル・エンタテインメント 日本配給:ツイン 2019年

不勉強にして、この映画を観るまで、全米31社に記事を配信しているナイト・リッダーというメディアがあることを知らなかった。
また、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストのように、かつては政権批判で名声と信頼を得た大手新聞が、ホワイトハウスからリークされた情報を垂れ流し、ブッシュ政権の後押しと国民の戦意高揚に大きく貢献していたことも、本作を観て初めて知った。

開巻、中東らしき戦地でリッダーの記者ジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)がテロリストに拘束され、口答えをして銃を突きつけられる。
思わずこちらが身を乗り出した途端、これが実は訓練だったとわかったその直後、ランデーの携帯電話に世界貿易センタービルに2機目の飛行機が突っ込んだ、というメールが届く。

この9.11同時多発テロの首謀者がアルカイダのビンラディンで、ブッシュ大統領はアルカイダとイラクが秘かに結びついていると主張、ついには「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」として、イラクとの開戦に踏み切った。
その後、イラクに大量破壊兵器も核兵器もなかったことは、すでに全世界が知っている通りである。

ランデーと相棒ウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)は、様々な政府関係者に当たって、イラクが9.11とは無関係であること、大量破壊兵器など製造していないという情報を得る。
しかし、ランデーとストロベルがそういう記事を配信するたび、ブッシュ政権はNYタイムズやWポストに自分たちの主張を正当化する情報をリーク、ナイト・リッダーをメディア界で孤立させていく。

ストロベルとランデーが恋人リサ(ジェシカ・ビール)の家のホームパーティーで、リサの父親に「おまえたちの記事はウソと間違いだらけだ」とからまれ、ランデーがやり返す場面が印象的だ。
自分が正しいと信じた記事を書き続ける姿勢を貫けるか、その一番の障害となるのは、実はこういう身内からの批判なのである。

本作には、ブッシュ大統領の言葉を盲信し、19歳で兵役を志願、戦地へ到着して間も無く、ジープで移動中に爆撃に見舞われ、脊髄を損傷して半身不随になった元兵士も登場する。
また、ロブ・ライナー監督自ら演じたジョン・ウォルコット編集長が、編集部の記者たち全員に、批判や圧力にめげず、取材を続けるよう励ます場面も大変印象的だ。

しかし、残念ながら、本作は必ずしも映画として成功しているとは言い難い。
全体のトーンが一本調子で、ハレルソンが演じたランデーの人物像にも深みが足りない、というより明らかなミスキャスト。

正義の告発をしているという製作者たちの自画自賛が過ぎて、観る側を最後まで引っ張っていく工夫に欠けている。
とはいえ、大変勉強になったのも確かですが。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る