『白熱』(セルDVD)🤗

White Heat 113分 モノクロ 1949年 アメリカ=ワーナー・ブラザース

主演のジェームズ・キャグニーは前項『犯罪王リコ』(1930年)のエドワード・G・ロビンソンと同時代に活躍した短躯・大顔系ギャングスターで、身長はロビンソンよりも5㎝低い165㎝。
迫力、色気、愛嬌が綯交ぜになった独特の個性はライバルの追随を許さず、アメリカ本国では伝説的存在として知られている。

ラオール・ウォルシュが監督した本作撮影時は50歳になり、当時としては高齢だったことから、すでにギャング映画からの引退を考えていたという。
が、そうと知らなければ全盛期と見紛うぐらい圧巻の熱演を見せていて、現在ではキャグニーの代表作の1本に数えられている。

開巻、キャグニー演じる主人公コーディ・ジャレット率いるギャング団が、いきなり列車強盗をやってのけるくだりから迫力たっぷり。
ジャレットはケガをした子分が足手纏いだから始末しろと別の子分に命じるほど冷酷無比な半面、常に母親マー(マーガレット・ワイチャーリー)を一味に同行させているほどのマザコンだ。

列車強盗の容疑をかけられたジャレットは、同日同時刻に起きた別の強盗事件の主犯として警察に自首。
かねて計画していたアリバイ工作で、ごく短い刑期を努め終えれば、列車強盗で手中にした大金を自由に使えるようになる、という算段だった。

この間、一の子分だったビッグ・エド(スティーヴ・コクラン)は、刑務所内の工場で事故を装い、ジャレットを殺してしまおうと画策。
不倫関係にあるジャレットの女房バーナ(ヴァージニア・メイヨ)とも謀り、母のマーも亡き者にして、一味の乗っ取りを企む。

そうとは知らないジャレットは、工場でてんかんの発作を起こし、殺されそうになっていたところを、服役囚に変装していた潜入捜査官ファロン(エドモンド・オブライエン)に救われる。
その後、母親が殺されたと知って半狂乱になるくだりが、キャグニーの前半最大の見せ場で、現代のアル・パチーノやロバート・デ・ニーロとはまったく異質の狂気を感じさせる。

怒り心頭で脱獄に踏み切ったジャレットはエドを殺し、バーナを服従させ、ファロンを一味に引っ張り込み、今度は化学工場からの現金強奪に乗り出す。
その工場に潜入した矢先、信頼しきっていたファロンの正体が捜査官であることを知ったキャグニーの演技がまた凄まじい。

溺愛していた母亡き後、ファロンを親友であり、専属セラピストのように感じていたキャグニーは、泣きながら笑い、笑いながら泣いて、「おまえは裏切り者だったのか!」と、声を荒らげてファロンをなじる。
ジャレットというギャング、キャグニーという俳優が内面に秘めていた激情が一挙に噴出する場面で、こういう演技はパチーノもデ・ニーロもあまり見せたことがない。

ラスト、警官隊に追い詰められたキャグニーはガスタンクの天辺に上り、タンクに向かって発砲しながら絶叫する。
「やったぜ、ママー! 世界の頂点だー!」

これはアメリカのギャング映画史上一、二を争う名ラストシーンだろう。
『犯罪王リコ』のロビンソンもそうだったが、アンチヒーローの最期を凄絶に見せるのは、今時の映画のような血飛沫や大爆発ではなく、やはり俳優の演技力なのだ、ということをまざまざと教えてくれる。

なお、主人公をマザコンのてんかん持ちにしたのはキャグニー自身のアイデアだったという。
公開当時は大熱演だと絶賛されたが、当のキャグニーは自分の演技に不満で、翌年捲土重来を期して『明日に別れの接吻を』(1950年)に主演すると、これを最後にギャング映画は1本も撮っていない。

オススメ度A。

DVD10枚組 発行:株式会社コスミック出版 発売:2019年9月9日 定価1800円=税別

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し

8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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