初めて友だちの車椅子を押した

元選手の友人が入院していた某大学病院の入院病棟20階、エレベーターホールからの眺め

きのうの夕方、元プロ野球選手の友人を見舞いに都内の大学病院に行ってきた。
現役時代はこれといったケガもなく、選手としては細身の身体で長い間プレーし続けてきた男が、少年野球教室で実技指導をしている最中にアキレス腱を切ってしまい、手術を受けたという。

私に直接連絡してきたのは元選手本人ではなく、お医者さんのほうだった。
とりあえず、「明日の午後イチで様子を見に行きますよ」と伝えたら、先生の返事は「いや、来てもらうんなら夕方がいいなあ」。

どういうことかと聞くと、元選手は昨夜、あるメディアで世界野球プレミア12の侍ジャパンの初戦・ベネズエラ戦を解説する仕事が入っていた。
試合開始1時間前にはその会社へ行かなければならないので、病室からタクシー乗り場まで車椅子を押してくれる人間が必要だというのだ。

そんな簡単なことでお役に立てるのならと、病院へ足を運んだ。
午後4時半ごろに入院病棟20階の個室に元選手を訪ね、しばらくおしゃべりをしたあと、彼が車椅子に乗り、私が松葉杖を背凭れの後ろのリングに入れ、病室から出発。

私が初めて押した車椅子。背凭れの後ろのリングに松葉杖を入れる

これが重労働とは言わないまでも、想像以上に力の必要な作業だった。
車椅子を押すのは初めての経験で、これがこんなに重いものだとは思わず、内心で驚きながら、まず病室からエレベーターへ。

20階から1階までエレベーターで降りたまではよかったが、ここから別の病棟の通用口を抜けたところにあるタクシー乗り場までが結構遠い。
しかも、病院自体が増改築中で、1階に降りると結構アップダウンもある。

元選手が前日に手術したばかりの足をギプスで固められたま、これだけの距離をひとりで車椅子、もしくは松葉杖で移動するのは確かに危険が伴う。
タクシー乗り場はバリアフリーになっておらず、歩道と車道に段差があり、しかも歩道の路面が凸凹なので、手を滑らせて車道側に転ばないよう、気をつけなければならない。

幸いにもすぐにタクシーが来たものの、元選手が松葉杖を突いてタクシーに乗るまで、抜かりなく注意しておく必要もあった。
無事タクシーに乗り込み、発車したところを見送って、私の任務は完了。

自分の足で歩くだけならどうということのない距離が、これほど長く感じられたことはなかった。
しかも、長いつきあいで、元プロ野球選手だから人並み以上に体力があるはずの友人が乗った車椅子を押すことになるとは、夢にも思わなかった。

それと同時に、お互い20代のころから遊んだりムチャしたりしてきたけど、もう50代半ばになったんだなあ、という感慨も湧く。
足腰が丈夫だというのは本当にありがたいことだと、改めて痛感しました。

帰りに地下1階の蕎麦屋〈神田松寿庵〉で食べたかき玉そば640円。なかなか美味しかった
スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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