『モリーズ・ゲーム』(WOWOW)

Molly’s Game/140分 2017年 アメリカ=STXフィルムズ 日本配給:キノフィルムズ 2018年

こういう映画を観ると、アメリカはよくよく映画化できるネタが尽きないところだなあ、と改めて思う。
と同時に、実話のノンフィクション化、そこに自由な想像や解釈を加えたフィクション化の手法にはまだまだ冒険の余地と可能性があるように感じる。

この映画の原作者モリー・ブルームは元モーグルの選手で、コロラド大学で政治学を専攻していた才媛でもある。
ケガで2002年ソルトレーク冬季五輪への出場に失敗し、ロースクールに進学して弁護士を目指そうと考えながら、ロサンゼルスでポーカーの秘密クラブを手伝うアルバイトを始める。

開巻、まだ幼いモリー(パイパー・パウエル)がコロラドの片田舎で父親ラリー(ケヴィン・コスナー)にスキーの特訓を受ける場面が延々と続く。
ラリーは心理学を教えている大学教授で、一見単調なスパルタ式の指導を繰り返しているようでいながら、言葉巧みにヘトヘトのモリーが自ら練習をするように仕向けていく、という過程が面白い。

オリンピックの夢破れたモリーは、ロサンゼルスで友人の家に居候しながらディーン・キース(ジェレミー・ストロング)の経営する不動産会社で事務の仕事を始める。
このキースの裏稼業が、俳優、弁護士、投資家らLAのセレブを相手にしているポーカークラブだった。

大人になってからのモリーを演じているのはジェシカ・チャステイン。
個人的にはアカデミー助演女優賞にノミネートされた『テイク・シェルター』(2010年)、キャスリーン・ビグローが監督した『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)などで注目していた女優で、今回もかなりの熱演である。

頭の回転が早く、少々罵倒してもへこたれないモリーに目をつけたディーンは、ポーカークラブの運営を手伝わせるようになる。
もともと大学で政治学を学び、一度は弁護士になろうとしていたモリーは、たちまちギャンブラーたちを言葉巧みに煽る術を身につけ、ポーカークラブへ新規の顧客を引き込む営業活動も開始。

そんなモリーの魅力と才覚に嫉妬したディーンと仲違いすると、モリーは自分のスマホに収めた顧客リストを使い、ニューヨークのフォーシーズンズ・ホテルで独自のポーカークラブを開業。
最初のうちは順調に商売の手を広げていたが、ギャンブル依存症で身を持ち崩す顧客も続出、ついにはFBIとロシアン・マフィアに目をつけられてしまう。

モリーは自宅でマフィアの闇討ちに遭い、FBIに逮捕され、彼女がカジノ運営で蓄えた財産もすべて差し押さえられた。
FBIと検察は、モリーがセレブの名前いっぱいの顧客リストを出せば告訴を取り下げ、没収した貯金にも利子を付けて返そう、と司法取引を持ちかける。

モリーが法廷でFBIや検察官の思惑に翻弄される場面では、元検察官の弁護士チャーリー・ジャフィー(イドリス・エルバ)の存在感が光る。
とりわけ、司法取引の交渉で検察官を相手に一歩も引かない熱弁を振るうシーンが大変印象的だ。

ところが、モリーはカジノを経営していた立場として、たとえ刑務所で監獄生活を送ることになっても絶対に顧客リストは渡せないと主張。
いったいどうなることかと思っていたところで、フォックスマン判事(グラハム・グリーン)が、誰も予想だにしなかった判決をくだす。

監督・脚本は『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』(ともに2011年)、『スティーブ・ジョブズ』(2015年)など、ヒット作の脚本を数多く手がけているアーロン・ソーキン。
今回も難しい題材を巧みに換骨奪胎し、140分の長さを感じさせないエンターテインメントに昇華している手腕はさすがと言うしかない。

ただ、あえて難癖をつけるとするなら、悪事を働き続けたヒロインに、父親ラリーとの和解で救いを持たせているのは、ソーキンが『スティーブ・ジョブズ』でも使っていた定石通りの手法。
正直、またかと思ったけど、これで後味がよくなり、実在のモリーと家族も納得してくれたそうなので、仕方のないところか。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*)  B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?)  D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し

103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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