『ひろしま』、『忘れられた「ひろしま」〜8万8000人が演じた”あの日“〜』(NHK-Eテレ)

104分 1953年 製作:日教組 配給:北星映画

この作品は終戦の日から2日後の今年8月17日午前0時、NHK-Eテレで、地上波の全国放送としては初めてオンエアされた。
NHKとしても視聴者(受信契約者)の関心を惹起したかったのか、終戦の日の8月15日には本作の予告篇的ドキュメンタリー『忘れられた「ひろしま 」〜8万8000人が演じた”あの日“〜』を放送している。

映画本篇の放送に先立ち、アメリカの映画監督オリヴァー・ストーンが登場し、「観てください、観なければなりません」(“Must see,must see!”)と強調(この映像はドキュメンタリーの冒頭でも使われている)。
続けて見せ場の一部、原爆投下直後の惨状を再現したシーンが数秒間流れ、本篇に入っていく。

ただし、映画そのものはいきなり1945年から始まるわけではない。
戦後間もなく、広島市内の高校で女子高生のひとり、大庭みち子(町田いさ子)が授業中に白血病で倒れる場面から始まる。

みち子は被爆者だったが、ふだんはそのことを隠していた。
被爆したことを自らに口にすると、周囲の人たちに差別を受けたり、「原爆に甘えている」と非難されたりするからだと、級友の男子はみんなに訴える(そう言い募る彼の首にもケロイドの痕が残っている)。

広島の子供たちははあの原爆をどう捉え、被爆者の現状をどのように訴えていけばいいのか。
戦後、他県から赴任した北川先生(岡田英次)が生徒たちと話し合うくだりを経て、映画はいよいよ〝あの日〟へと遡っていく。

約30分に渡って描かれる原爆による焼け野原と被爆者たちを描いた場面はNHKの番宣通り、確かに凄まじい。
瀬戸内の島の救護所まで逃れて絶命するみち子の母・みね(山田五十鈴)、息子を見失って半狂乱になる遠藤秀雄(加藤嘉)、「熱い、水がほしい」と繰り返しながら太田川へ入り、そのまま溺れてゆくみち子の姉・町子(松山りえ子)ら女子高生と担任教師の米原先生(月丘夢路=広島出身)。

本作は終戦から僅か8年後に製作され、8万8000人の被爆者が協力したという。
そういう製作者や出演者の熱意はいま観ても十分に伝わってくるし、スケールの大きさや演出の生々しさも大いに評価されてしかるべきだろう。

しかし、山田、加藤、月岡ら、有名な俳優が熱演すればするほど、作り物めいて見えるのも確かだ。
実際、この映画にエキストラして出演した被爆者女性のひとりは、ドキュメンタリー『忘れられた「ひろしま 」』のインタビューで「現実はあんなものではなかった。映画ではとても再現できないでしょう」と語っている。

終戦後、被爆地に転がっていた石を打って日銭を稼ごうとする少年たちが、広島弁をまったく使わず、終始東京弁でしゃべっているところなども著しくリアリティを欠いている。
私たちの世代は被爆者・中沢啓治の自伝的漫画『はだしのゲン』(1973〜87年)をオンタイムで読んでいるので、これには決定的な違和感を感じる。

とくに、平和記念公園の参拝客に被爆地の医師や瓦を売りつけようとする子供たちが「オレたちゃあ遊んでんじゃねえんだよ」と啖呵を切る場面などはあまりに白々しい。
恐らく、アメリカ人のオリヴァー・ストーン、本作に1955年長編映画賞を授与したベルリン国際映画祭の審査委員にとってはまったく気にならないのだろうが。

ドキュメンタリー『忘れられた「ひろしま 」』では、本作が日教組によって製作された背景、完成後も内容が反米的であるとの理由で松竹をはじめとした映画会社に配給を拒否された経緯が語られる。
NHKがそうした封印された裏面史を明るみに出し、本作を地上波で放送したことには敬意を評したい。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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