『タイムマシンのつくり方』広瀬正

集英社 集英社文庫 448ページ 定価743円=税別
第1刷:1982年7月20日 改訂新版第1刷:2008年12月8日
単行本発行:河出書房新社 1977年7月

前項『時の門』(ロバート・A・ハインライン)で触れた広瀬正のエッセイ『「時の門」を開く』、及び筒井康隆の解説文が収録されている一冊。
表紙に明記されているように「広瀬正・小説全集」の最後の6冊目として刊行されている。

『「時の門」を開く』は付録として巻末に収められており、とりあえずこれを真っ先に読んでみた。
ハインラインへの質問状という形で、時間の経過、場所の移動、主人公の言動を2枚の図解で表し、広瀬が発見した疑問点・矛盾点が指摘されているが、正直なところ、『時の門』以上にわかりにくい。

しかし、解説で筒井が力説しているように、タイムトラベル・タイムパラドックスに対する広瀬の執念は確かにひしひしと伝わってくる。
本作は当初、エッセイだからということで「小説全集」から外されていたところ、「これも立派な作品だ」という小松左京の進言によって巻末付録として収録されたという。

そうした経緯を綴っている筒井の解説がまた温かみのある名文で、SFがまだまだ一般的に馴染みのなかった1960年代、ともにコツコツと作品を書き続けていた広瀬への〝同志的友情〟を感じさせる。
とりわけ、広瀬が世に出た傑作『マイナス・ゼロ』を当初は編集者に痛罵され、以後5年間小説が書けなかった、というくだりが痛切だ。

筒井自身、書き上げたばかりの長編を編集者に批判され、原稿用紙の束を淀川に投げ込んだこともあるという。
初めてこの文章を読んだとき、作家になるにはこれほど嫌な思いをしなければならないのか、と思ってから39年、ぼくはまだまだ苦労が足りないと痛感した。

ただし、ここに収められている広瀬の短編そのものは、『化石の街』『敵艦見ユ』のようなハードSF、『ザ・タイムマシン』『もの』『あるスキャンダル』のようなスラップスティック・コメディなど、純然たる娯楽作品として楽しめる作品が多い。
タイムトラベル物どころかSFでさえないホラー小説『鷹の子』の怖さも格別。

2019読書目録
※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録

27『時の門』ロバート・A・ハインライン著、稲葉明雄・他訳(1985年/早川書房 ハヤカワ文庫)
26『輪廻の蛇』ロバート・A・ハインライン著、矢野徹・他訳(2015年/早川書房 ハヤカワ文庫)
25『変身』フランツ・カフカ著、高橋義孝訳(1952年/新潮社)
24『ボール・ファイブ』ジム・バウトン著、帆足実生訳(1979年/恒文社)
23『車椅子のヒーロー あの名俳優クリストファー・リーブが綴る「障害」との闘い』クリストファー・リーブ著、布施由紀子訳(1998年/徳間書店)
22『ベストセラー伝説』本橋信宏(2019年/新潮社 新潮新書)
21『ドン・キホーテ軍団』阿部牧郎(1983年/毎日新聞社)※
20『焦土の野球連盟』阿部牧郎(1987年/扶桑社)※
19『失われた球譜』阿部牧郎(1998年/文藝春秋)※
18『南海・島本講平の詩』(1971年/中央公論社)※
17『カムバック!』テリー・プルート著、廣木明子訳(1990年/東京書籍)※
16『ボール・フォア 大リーグ・衝撃の内幕』ジム・バウトン著、帆足実生訳(1978年/恒文社)
15『ショーケン 最終章』萩原健一(2019年/講談社)
14『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
13『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
12『試合 ボクシング小説集』ジャック・ロンドン著、辻井栄滋訳(1987年/社会思想社 教養文庫)
11『ファースト・マン 月に初めて降り立った男、ニール・アームストロングの人生』ジェイムズ・R・ハンセン著、日暮雅通・水谷淳訳(2019年/河出文庫)
10『平成野球30年の30人』石田雄太(2019年/文藝春秋)
9『toritter とりったー』とり・みき(2011年/徳間書店)
8『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』津田大介(2009年/洋泉社)
7『極夜行』角幡唯介(2018年/文藝春秋)
6『力がなければ頭を使え 広商野球74の法則』迫田穆成、田尻賢誉(2018年/ベースボール・マガジン社)
5『OPEN アンドレ・アガシの自叙伝』アンドレ・アガシ著、川口由紀子訳(2012年/ベースボール・マガジン社)
4『桜の園・三人姉妹』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
3『かもめ・ワーニャ伯父さん』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
2『恋しくて』リチャード・フォード他、村上春樹編訳(2016年/中公文庫)
1『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』ティム・オブライエン他著、村上春樹編訳(2006年/中央公論新社)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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