『輪廻の蛇』ロバート・A・ハインライン

The Unpleasant Profession of Jonathan Hong
早川書房 ハヤカワ文庫 439ページ 翻訳:矢野徹、井上一夫、福島正実、吉田誠一
発行2015年1月15日 原語版発行1959年 定価900円=税別

前項の新潮文庫『変身』と一緒に三省堂で買ったロバート・ A・ハインラインの短編集。
ハインラインはぼくが高校時代、海外SF作家の中で最も愛読した巨匠のひとりで、この短編集は確かまだ読んでなかったはずだと思い、購入した。

そうしたら、『かれら』(福島正実訳)、『歪んだ家』(吉田誠一訳)を読んで、高校時代に読んでいたことを思い出した。
それなのに、もっと出来栄えの優れた『輪廻の蛇』(井上一夫訳)、『わが美しき町』(吉田訳)の内容をすっかり忘れていたのはどうしたことだろう。

やっぱりトシかなあ。
いや、ひょっとすると、昔は『かれら』と『歪んだ家』を拾い読みしただけで、ほかの作品を読んでいなかったのかもしれない。

本書で一番の傑作は邦訳版表題作『輪廻の蛇』。
タイムトラベルとタイムパラドックスは今年公開された『アベンジャーズ エンドゲーム』でも扱われているように、アメリカ映画においても永遠のテーマと化しているが、ハインラインが小説に書いたほどの度胆を抜くアイデアにはいまだにお目にかかったことがない。

本作は1945年から1993年の間を主人公が行ったり来たりしながら、過去のレイプ犯罪と妊娠の驚くべき真相を明らかにする。
わずか30ページの短編にタイムトラベル物の長編のようなアイデアとドラマが詰まっており、ラスト1行が非常に強烈。

こういう衝撃と感動はSFでなければ、それもハインライン作品でなければ絶対に味わえない。
未読の方はぜひ御一読ください。

2019読書目録
※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録

25『変身』フランツ・カフカ著、高橋義孝訳(1952年/新潮社)
24『ボール・ファイブ』ジム・バウトン著、帆足実生訳(1979年/恒文社)
23『車椅子のヒーロー あの名俳優クリストファー・リーブが綴る「障害」との闘い』クリストファー・リーブ著、布施由紀子訳(1998年/徳間書店)
22『ベストセラー伝説』本橋信宏(2019年/新潮社 新潮新書)
21『ドン・キホーテ軍団』阿部牧郎(1983年/毎日新聞社)※
20『焦土の野球連盟』阿部牧郎(1987年/扶桑社)※
19『失われた球譜』阿部牧郎(1998年/文藝春秋)※
18『南海・島本講平の詩』(1971年/中央公論社)※
17『カムバック!』テリー・プルート著、廣木明子訳(1990年/東京書籍)※
16『ボール・フォア 大リーグ・衝撃の内幕』ジム・バウトン著、帆足実生訳(1978年/恒文社)
15『ショーケン 最終章』萩原健一(2019年/講談社)
14『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
13『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)
12『試合 ボクシング小説集』ジャック・ロンドン著、辻井栄滋訳(1987年/社会思想社 教養文庫)
11『ファースト・マン 月に初めて降り立った男、ニール・アームストロングの人生』ジェイムズ・R・ハンセン著、日暮雅通・水谷淳訳(2019年/河出文庫)
10『平成野球30年の30人』石田雄太(2019年/文藝春秋)
9『toritter とりったー』とり・みき(2011年/徳間書店)
8『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』津田大介(2009年/洋泉社)
7『極夜行』角幡唯介(2018年/文藝春秋)
6『力がなければ頭を使え 広商野球74の法則』迫田穆成、田尻賢誉(2018年/ベースボール・マガジン社)
5『OPEN アンドレ・アガシの自叙伝』アンドレ・アガシ著、川口由紀子訳(2012年/ベースボール・マガジン社)
4『桜の園・三人姉妹』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
3『かもめ・ワーニャ伯父さん』アントン・チェーホフ著、神西清訳(1967年/新潮文庫)
2『恋しくて』リチャード・フォード他、村上春樹編訳(2016年/中公文庫)
1『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』ティム・オブライエン他著、村上春樹編訳(2006年/中央公論新社)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る