『アポロ11 完全版』

Apollo 11
93分 2019年 アメリカ 日本配給:東北新社 STAR CHANNNEL MOVIES

アポロ11号の「月面着陸50周年記念作品」と銘打ち、今月19日に公開されて静かなヒットを続けているドキュメンタリー作品。
前日にチケットを予約し、きのうヒューマントラストシネマ有楽町へ12時の回を観に行ったらほぼ満員だった。

NASA(アメリカ航空宇宙局)、NARA(アメリカ公文書記録管理局)が保管していた1968年当時の70ミリフィルムや1万1000時間以上に及ぶ音声データを発掘。
デジタルリマスター処理を施し、クリアで美しい4K映像となって人類史上初の月面着陸をスクリーン上に再現している。

5歳のころ、この映像をテレビで繰り返し見たぼくは、ある意味「アポロ世代」である。
親に買ってもらった漫画雑誌も、小学校の図書室に置かれた本も、どれを開いてもアポロの宇宙船や宇宙飛行士の絵や写真でいっぱい。

1970年の夏休みに連れて行かれた大阪万博では、アメリカ館で見た月の石が最も印象に残っている。
あの月面着陸から50年、ニール・アームストロングの伝記映画『ファースト・マン』が公開されるとやっぱり観に行き、その原作ノンフィクションも熟読して、いままたこのドキュメンタリーを観たらまた胸ときめかないではいられない。

開巻、そそり立つサターン・ロケットを乗せた巨大な移動車が、地響きのようなキャタピラーの音をたてて第39発射施設に向かう。
その光景を眺める人々を映し出したオープニングが『ファースト・マン』原作の冒頭部分を思い起こさせ、一気に引きずり込まれてしまう。

アームストロング、バズ・オルドリン、マイク・コリンズがしゃべって動く姿を観るのも久しぶり、というよりこれほど長尺の動画を観るのは初めてだった。
少々残念なのは、アームストロングが月に降り立つ動画は着陸船イーグルの上方に取り付けられたカメラで撮られているため、いつ第1歩を印したのかがわかりにくいこと。

個人的には、月面着陸もさりながら、月から飛び立ったイーグルが司令船コロンビアにドッキングする場面に感動を覚えた。
イーグルとコロンビア両方のカメラから、お互いの接合部分を真正面から捉えた画像をふたつ並べ、両方がぐんぐん目の前に迫ってくる姿が素晴らしい。

司令船が大気圏に突入する直前には、小さな三角形の窓からほぼ水平線になった地球の輪郭が見え、大気との摩擦で手前の窓がオレンジ色の炎に包まれる。
この現実でありながらも幻想的で、地球では決して見ることのできない光景を目にした宇宙飛行士たちの感慨はいかばかりであったか。

現代の視点から解説するナレーションは一切なく、説明的アニメーションも最小限にとどめられている。
この手法は一長一短で、1968年の時代の空気をストレートに感じさせてくれる半面、管制センターのアナウンスで専門用語が頻出するくだりなど、すぐには理解しにくい部分もあった。

採点は80点です。

ヒューマントラストシネマ有楽町、109シネマズ二子玉川などで公開中

2019劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

7『主戦場』(2019年/米)85点
6『長いお別れ』(2019年/アスミック・エース)75点
5『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年/米)80点
4『アベンジャーズ エンド・ゲーム』(2019年/米)75点
3『ファースト・マン』(2018年/米)85点
2『翔んで埼玉』(2019年/東映)80点
1『クリード 炎の宿敵』(2018年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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