『検察側の罪人』(WOWOW)

(123分 2018年 東宝)

去る9日に亡くなったジャニー喜多川氏が育て上げ、ジャニーズ事務所の2枚看板となった木村拓哉(元SMAP)、二宮和也(嵐)の初共演が実現した作品。
私は毀誉褒貶著しいジャニー氏の功罪を語れるほどの芸能界通ではないが、一つだけ評価に値する点を挙げるとすれば、このキムタクやニノのように、単なるアイドルタレントを超えた演技力を持つ俳優を輩出したことにあると思う。

とくに、彼らが主演した時代劇、キムタクの『武士の一分』(2006年)、ニノの『大奥』(2010年)はどちらも非常に見応えがあった。
そんなふたりが初めて共演した本作には、十分面白くなり、大ヒットしそうな条件もそろっていた。

原作はベストセラーとなった雫井脩介の同名ミステリ小説。
監督・脚本はリメイク版『日本のいちばん長い日』(2015年)を撮っている原田眞人とくれば、取り立ててキムタクやニノのファンではなくても、とりあえず興味は沸く。

キムタク演じる最上毅は東京地検刑事部のエリート検事で、ニノ扮する沖野啓一郎はその教え子にして助手。
沖野はふだんから同期生の検事仲間に「オレは最上さんの正義を信じる」と公言するほど心酔している。

しかし、金貸しの老夫婦が刺殺された事件の捜査を通じ、最上が特定の容疑者・松倉重生(酒向芳)を無理矢理犯人に仕立てあげようとしているとわかると、沖野は激しく反発。
事務官の橘沙穂(吉高由里子)とともに検察庁を辞め、最上の違法捜査を暴き、法廷で最上と対決しようとする。

と、こう書くと面白いようだが、脚本に穴が多く、演出もテンポが悪くて、一向に面白くならない。
最大の弱点は、なぜ最上がそこまで松倉を憎悪しているのかが説明不足で、実感を伴って伝わってこないこと。

次に、最上には裏稼業の親友・諏訪部利成(松重豊)がいて、彼に頼めば車や拳銃の調達に人殺しまでやってくれる、というご都合主義の設定も1970年代のB級サスペンス映画のよう。
さらに、橘の正体が雑誌のルポライターで、キャバクラに潜入取材した暴露本がベストセラーになった過去がある、というキャラクターも荒唐無稽に過ぎる。

検察庁の暴露本を出すため、難しい試験をパスして事務官に就職するような女性ライター(しかも美人)なんて、現実にいるわけがない。
もっと言うなら、キムタクをはじめとした役者たちがやたら早口でボソボソとしゃべり、肝心なセリフほどはっきり聞き取れないのが困る。

これは映画としての技術的欠陥と言ってもよく、原田をはじめとするスタッフは、キムタクとニノをカッコよく見せさえすれば客は来ると勘違いしていたのではないか。
このふたりはまた共演するのだろうから、今度こそは彼らの演技力を存分に活かした傑作を作ってもらいたいものである。

オススメ度D。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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