『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(WOWOW)

(Roman Polanski: A Film Memoir/90分 2012年 イギリス、イタリア、ドイツ
日本公開2013年)

鬼才ロマン・ポランスキーが様々な逸話、伝説、スキャンダルに満ちた数奇な半生を自ら振り返るドキュメンタリー映画。
1964年からポランスキーのビジネス・パートナーで、親友でもある映画プロデューサーのアンドリュー・ブラウンズバーグがインタビュアーを務めている。

ポランスキーは2009年9月、チューリヒ国際映画祭で功労賞を受賞するためにスイスに滞在中、1977年に起こした13歳の少女への性的暴行に関連する容疑で警察に身柄を拘束された。
暴行事件自体はポランスキーがアメリカに居住していたころの案件で、アメリカ当局はスイス当局にポランスキーの身柄引き渡しを要求。

スイス側はこれを拒否してポランスキーの保釈を認め、2009年12月にフランス郊外の自宅軟禁とする決定をくだした。
ブラウンズバーグがポランスキーを訪ね、インタビュー撮影を始めたのはその翌年、2010年4月16日のことである。

インタビューの骨子は大きく分けて4つ。
第1はポーランドでの幼少期にどのような戦争体験をして、それがいかにして代表作『戦場のピアニスト』(2002年)に反映されたか。

第2は1969年、最初の妻、女優シャロン・テートがチャールズ・マンソン率いるカルト教団マンソン・ファミリーに殺された事件について。
この事件は当時、ポランスキー夫妻が借りていたロサンゼルスの邸宅にマンソン一味が7人で侵入、妊娠8カ月だったシャロンを16カ所ナイフで刺し、胎内の子供とともに惨殺したものである。

マンソンが狙ったのは、実は有名なポランスキーやテートではなく、この邸宅の前の持ち主で、往年のスター女優ドリス・デイの息子でミュージシャンのテリー・メルチャーだった。
マンソンは以前、歌手になりたくてメルチャーに相談を持ちかけたが相手にしてもらえず、逆恨みしてメルチャーを殺そうと計画し、人違いでテートを殺してしまったのである。

しかし、当時のマスコミは、ポランスキーの作風やゴシップなどから、ポランスキーにも事件の遠因があったのではないか、などという憶測を報道。
妻と子を失った悲しみに暮れている最中、様々な報道によって自分がいかに傷ついたか、撮影当時76歳だったポランスキーは切々と語っている。

第3のポイントは、そのポランスキーが拘束される原因となった1977年の13歳の少女に対する性的暴行事件。
このくだりでは33歳になった被害者女性が登場し、結婚して一児の母になった彼女が、ポランスキーから謝罪の手紙を受け取ったことを告白、もうすべてを水に流したいと発言している。

そして、第4は『フランティック』(1989年)の主演に起用したエマニュエル・セリエとの結婚と、彼女との間にふたりの子供をもうけた家庭生活について。
「子育てから得られる経験と幸福は、ほかに例えようもないほど素晴らしい」とあのポランスキーが実感をこめて語るくだりは、意外にもと言っては失礼ながら、大変説得力に満ちている。

ポランスキーは戦時中だった幼少期、ドイツのユダヤ人狩りによって家族をバラバラにされ、最初の結婚も殺人事件によって悲劇的結末を迎えた。
そんな波乱に満ちた半生を送った鬼才が、最後は市井の凡人と同様、温かい家庭に終生の拠り所を見出したのである。

ツッコミが足りない、きれいごとばかりだ、もっとスキャンダルの内幕を聞かせろ、という批判はあるだろうが、私としては素直に納得させられた。
ただし、ポランスキー作品を観ていない人にはいささか退屈かもしれない。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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