『スキャナーズ』(WOWOW)

(Scanners/105分 1981年 カナダ/日本配給=東映洋画)

デヴィッド・クローネンバーグと言えば、最近では巨匠となってからのちの『イースタン・プロミス』(2008年)や『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014年)などの評価が高い。
しかし、トロントを拠点に新進気鋭の映画作家として売り出していた時代の『ラビッド』(1977年)、『ビデオドローム』(1983年)のほうが、個人的には好きだ。

カナダ特有の荒涼とした土地、寒々とした空気感の中、クローネンバーグならではの毒々しくも凶々しい場面が繰り広げられ、観終わったときには人間の奥底に潜んだ欲望や情念を見せつけられたような気分を味わわされる。
この『スキャナーズ』もそうしたクローネンバーグの初期作品群の1本で、劇場公開当時は興行的成功を収め、一躍その名を世界的に知られる出世作となった。

タイトルロールのスキャナーとは文字通り、人間の内面をスキャン(走査)できる超能力者たちである。
狙いをつけた相手の脳内や神経系統に入り込み、相手を意のままに操ったり、苦痛を与えた上に死に至らしめることも可能だ。

そんなスキャナーのひとり、主人公の若者キャメロン・ベイル(スティーブン・ラック)は、秘かにスキャナーを狩り集めている国際警備保障会社コンセックの秘密組織に拉致される。
この組織のリーダーはポール・ルース博士(パトリック・マクグーハン)で、悪役かと思ったらそうではなく、世界征服を企むスキャナーズ一味を壊滅させるため、ベイルの力を貸してほしいと打ち明ける。

その〝悪のスキャナーズ〟の首領ダリル・レボックを演じるのが、1980年代以降、SFやスリラーの悪役として人気を博したマイケル・アイアンサイド。
レボックがコンセックの公開実験会場に登場、自分をスキャンしようとした科学者を〝逆スキャン〟し、目や鼻から血を噴き出させ、頭を吹き飛ばしてしまう場面が前半最大の見どころとなっている。

ストーリーが進むにつれ、スキャンはエフェメロルという妊婦用睡眠薬を使用した母親から生まれた子供たちに備わった能力であることがわかってくる。
単に相手の心を除いたり、苦しめたりするだけでなく、自分と同期させて思いのままに操ることもできる。

レボックはこの能力の特性を生かし、人類を自分の奴隷にして世界征服を企んでいるのだ。
実は、ベイルはそのレボックの実の弟であり、彼ら兄弟の父親こそ、ほかならぬルース博士だった。

ルース博士が殺されたあと、レボックは弟のベイルに野望実現のために手を組もうと持ちかけるが、ベイルはこれを敢然と拒否して兄と対決。
クライマックスでは、ベイルの恋人のスキャナー、キム・オブレスト(ジェニファー・オニール)が見守る中、レボックとベイルの兄弟が壮絶な〝スキャン合戦〟を繰り広げる。

この場面では『小さな巨人』(1971年)でダスティン・ホフマンに、『エクソシスト』(1973年)でリンダ・ブレアに施した特殊メイクで知られるディック・スミスがこの道の名匠ならではの手腕を存分に発揮。
両者が血管を浮き上がらせ、レボックが白目をむき、ベイルが目から血を噴き出す〝血で血を洗う死闘〟は、まだCGのないアナログ時代ならではの迫力を感じさせる。

この場面をイラスト化したのが公開当時のチラシ&ポスターで、いま見るとネタバレもいいところ。
しかし、この対決が決着したあと、のちの傑作『戦慄の絆』(1988年)につながる見事なオチがついている。

あっと思わせるこのどんでん返しは、単に優れたアイデアと言うに止まらず、クローネンバーグ独自の思想から導き出されたものと解釈したい。
オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12 『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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