『ドクトル・ジバゴ』(NHK-BSP)

Doctor Zhivago 197分 1965年 
アメリカ、イタリア=メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
日本公開1966年 シネマ・インターナショナル・コーポレーション  

中学か高校のころ、地上波テレビの洋画番組で吹替版を観たものの、いまひとつピンとこないまま、これまできちんと鑑賞する機会がなかった。
昔は文芸超大作として何度か繰り返しリバイバルされており、広島でも確か1970年代後半、朝日会館(現在は閉館)で上映されている。

なんと救いようのない、それでいてなんと美しいメロドラマであることか。
それが、初めてノーカット字幕版をじっくりと観たあと、胸の内に沸き起こった率直な感想である。

主人公の医師にして詩人、ユーリー・ジバゴ(オマー・シャリフ)は原作小説を書いたボリス・パステルナークの分身。
トーニャ(ジェラルディン・チャップリン)という貞淑で聡明な妻がいながら、ジバゴが激しく愛し合うようになる愛人がラーラ(ジュリー・クリスティー)で、彼女も現実にパステルナークの愛人だったオリガ・イヴィンスカヤがモデルとなっている。

世に若き詩人として認められていたジバゴは、開業医を目指していた温和で堅実な青年だったが、帝国を打倒して革命を実現しようとするボリシェヴィキ(レーニンが率いる社会主義者一派)の行動に共感を覚えていた。
ラーラはそのボリシェヴィキのパーシャ(トム・コートネイ)と結婚を誓い合っていながら、母親のパトロンである悪徳弁護士ビクター・コマロフスキー(ロッド・スタイガー)に手篭めにされ、母親ともども愛人にされてしまう。

思い余ったラーラは盛大なパーティーが行われているレストランに乗り込み、コマロフスキーに向かって発砲。
コマロフスキーは腕の傷をジバゴに治療してもらい、ラーラを警察に突き出そうとはせず、その場からパーシャに連れ去られたラーラはのちに結婚、彼との間にひとり娘をもうける。

ロシア全土で赤軍と白衛軍が衝突し、多数の死傷者が出る中、ジバゴは軍医、ラーラは看護師として野戦病院に駆り出され、次第に惹かれ合うようになる。
後ろ髪を引かれる思いでジバゴが妻と義父のアレクサンドル(ラルフ・リチャードソン)が待つモスクワの家に帰ってくると、革命を成功させた共産党員が乗り込み、家を多数の労働者に提供するよう強制し、無理矢理接収しているところだった。

こうしてジバゴ、トーニャ、アレクサンドルは自宅を追われ、貨物列車に押し込められ、ウラル地方のベリキノにあるかつての別荘へ向かう。
その途中、赤軍の軍用列車が隣の線路を通りかかり、ここでジバゴは冷徹な指揮官と化したパーシャ、現在はストレルニコフ同志と呼ばれるラーラの夫に再会。

ここでストレルニコフは「昔はあんたの詩が好きだった。いまは違う。愛とか、真心とか、実にくだらない。いまのロシアに個の存在など許されないのだ」と傲然と言い放つ。
ジバゴがかつて共感を示していた若きボリシェヴィキはいまや、赤軍の武力を笠に着て、自分の詩作をも弾圧する権力者の走狗に変貌していた。

どうにかベリキアにたどり着いたジバゴは、そこからほど近いユリアティンに娘と暮らしているラーラとふたたび巡り会う。
こうして本妻と愛人の間を行き来する生活に浸っていたのも束の間、今度はパルチザンに拉致されて従軍医として働かされる羽目になった。

パルチザンから逃れてベリキアに戻ってきたものの、しばらく離れ離れになっていた妻子も義父もいない。
心身ともに傷つき、疲れ果てたジバゴは、それでも自分を迎え入れてくれたラーラと新たな生活を始め、もう一度詩を書き始める。

家の周囲に広がる雪原に狼が群れ、遠吠えを繰り返す中、黙々と紙にペンを走らせるジバゴの姿が痛々しくも美しい。
狼に怯えるラーラを励ますジバゴは、まるで紙とペンによって魂と生きる力を取り戻したかのように見える。

最初から最後まで際限のない過酷で悲惨な運命に翻弄されながら、主人公のシャリフは水のように無垢な個性を保ち続け、クリスティの美貌も最後まで損なわれることがない。
そこには、これこそがメロドラマであり、愛に生きる男女は美しいものだという巨匠デヴィッド・リーンの主張が込められているようにも思う。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
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23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12 『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
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3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B
1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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