『チェンジリング』(WOWOW)

Changeling

 息子を誘拐され、無事に戻ってきたと思ったら別人だったと判明、途方に暮れる母親をアンジェリーナ・ジョリーが演じ、クリント・イーストウッドが監督している。
 劇場公開当時、この概略だけを知り、てっきりよくある〝子供の取り違えミステリー〟かと思ったら、現実に起こった事件を映画化した堂々たる社会派の力作だった。

 元ネタになったのはゴードン・ノースコット事件という連続少年誘拐殺人事件で、舞台は1920年代のロサンゼルス。
 当時の社会、風俗を再現した美術担当のジェームズ.J.ムラカミ、衣裳担当デボラ・ホッパーが完璧に近い仕事をしており、電話会社の主任交換手を務める主人公クリスティン・コリンズ(ジョリー)の日常を描いた冒頭から引き込まれる。

 当時のロサンゼルス警察は捜査能力に乏しく、麻薬犯罪や殺人事件が野放しになっている一方、ホームレスのような社会的弱者に対する横暴にも目に余るものがあった。
 コリンズが「息子が家に帰ってこない」と電話で市警に捜索を依頼しても、「そういうケースでは24時間以内に99%戻ってくる」と取り合ってもらえない。

 ようやく市警が重い腰を上げてからも、息子ウォルターの行方は杳として知れず。
 かねてラジオ番組で市警を批判していたグスタブ・ブリーグレヴ牧師(ジョン・マルコヴィッチ)は、この事件を契機に市警の腐敗を糾弾するキャンペーンを開始。

 そうした最中、失踪から5カ月後にしてウォルターが発見されるが、コリンズが駅まで迎えに行ったら別人だった。
 しかし、この〝手柄〟を市警のイメージ回復に利用したいJ.J.ジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)、ジェームズ・E・デーヴィス市警本部長(コルム・フィオール)は、母子再会の場に大勢詰めかけたマスコミの手前、「あなたの息子だということにしておいてほしい」と頼み込む。

 しかし、仕方なく家へ連れ帰った息子は身長が7センチも低い上、風呂へ入れるために裸にしたら、息子にしていない割礼がされていた。
 息子の背後から撮られたこの場面、息子の性器を見て驚きを露わにするジョリーの表情が非常に印象的だ。

 コリンズは息子が別人だと訴え、学校の教師や歯科医から証拠を集め、市警に対して再度捜索を依頼する。
 が、ジョーンズ警部は市警のお抱え医師に協力させ、「身長が縮んだのは誘拐されたショックによるもの」「割礼は誘拐犯が衛生を考えて行ったものだろう」などと反論。

 さらに、「あなたは子供がいない独身生活に慣れてしまい、息子を追い出したがっているのだ」とコリンズを罵倒したあげく、「警察の捜査を信用できない精神異常者」だと決めつけ、精神病院に拉致させてしまう。
 この精神病院でコリンズら女性患者が医師や看護師に虐待される描写がまた凄まじく、イーストウッドならではの乾いたタッチが効いている。

 一方、市警のレスター・ヤバラ刑事(マイケル・ケリー)はそのころ、カナダから不法入国した罪で逮捕した少年の口から、ゴードン・ノースコットの連続誘拐殺人事件に加担させられたという告白を聞いて捜査に着手。
 恐るべき事件の全貌が明らかになった直後、ブリーグレヴ牧師らは辣腕弁護士サミー・ハーン(ジェフ・ピアソン)の手を借りて市警と精神病院の告発に踏み切った。

 ここから先の法廷闘争も迫真の見せ場になっており、様々な経験と試練を通して逞しく、かつ美しくなってゆく女性の姿を演じ切ったジョリーの演技は見事の一語。
 『ミスティック・リバー』(2003年)、『ミリオン・ダラー・ベイビー』(2004年)、『グラン・トリノ』(2008年)など、イーストウッドと組んだ作品が多い撮影トム・スターンの色調とルックも素晴らしく、ジョリーとともにこの年のアカデミー賞にノミネートされている。

 オススメ度A。

(2008年 アメリカ=ユニバーサル・ピクチャーズ/日本配給2009年 東宝東和 142分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

120『エル ELLE』(2016年/仏、白、独)A
119『女王陛下の007』(1969年/英、米)C
118『007 スペクター』(2015年/英、米)B
117『007 慰めの報酬』(2008年/英、米)C
116『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年/英、米)C
115『暴走パニック 大激突』(1976年/東映)C
114『お尋ね者七人』(1966年/東映)B
113『忍者狩り』(1964年/東映)C
112『十兵衛暗殺剣』(1964年/東映)B
111『十三人の刺客』(1963年/東映)B
110『地上最大のショウ』(1952年/米)A
109『スリーピー・ホロウ』(1999年/米)A
108『モネ・ゲーム』(2012年/米)C
107『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(2017年/米)A
106『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』(2016年/米)C
105『ジェイソン・ボーン』(2016年/米)A
104『ボーン・レガシー』(2012年/米)C
103『ハンス・ジマー ライブ・イン・プラハ』(2017年/米)B
102『夕陽の群盗』(1972年/米)B
101『アウトロー』(1976年/米)A
100『スラップ・ショット』(1977年/米)B
99『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年/東宝)C
98『女囚さそり 701号怨み節』(1973年/東映)B
97『女囚さそり けもの部屋』(1973年/東映)B
96『女囚さそり 第41雑居房』(1972年/東映)B
95『女囚701号 さそり』(1972年/東映)A
94『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』(1961年/東映)C
93『三度目の殺人』(2017年/東宝)C
92『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(2011年/米)B
91『エイリアン:コヴェナント』(2017年/米)B
90『プロメテウス』(2012年/米)B
89『アンドロメダ… 』(1971年/米)A
88『亡霊怪猫屋敷』(1958年/新東宝)B
87『怪談かさねが渕 』(1957年/新東宝)B
86『一寸法師』(1955年/新東宝)C
85『黒蜥蜴』(1962年/大映)B
84『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』(1976年/日活)D
83『狼やくざ 葬いは俺が出す』(1972年/東映)B
82『博徒七人』(1966年/東映)A
81『泥棒成金』(1955年/米)A
80『スペース カウボーイ』(2000年/米)C
79『ソイレント・グリーン』(1973年/米)B
78『狼は天使の匂い』(1972年/仏)B
77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る