『ソイレント・グリーン』(NHK-BS)

Soylent Green

 前々項『さらば友よ』(1968年)、前項『狼は天使の匂い』(1972年)に続いて、「ガキのころにテレビで吹替版を見た映画をノーカット字幕版で再見してみた」シリーズ第3弾。
 今回は『猿の惑星』(1968年)以降、歴史スペクタクルからSFパニック映画に路線変更したチャールトン・ヘストン主演の本作である。

 舞台はいまや現実に2年後に迫っている2022年のニューヨークで、人口爆発によって住民が約4000万人に増加し、高齢化も進んで、勝ち組と負け組の格差が極端なまでに拡大している。
 2018年現在、実際のニューヨークの人口は約2000万人と半分にとどまっている(都市圏の定義によって850万人とする説もある)が、ハリイ・ハリスンの原作小説『人間がいっぱい』にも描かれたディストピア的ディテールはいま見てもリアル、かつ予見性に富んでいる。

 この映画で記憶に焼き付けられたのは、何と言ってもヘストン演じる刑事の親友だった老人エドワード・G・ロビンソンが自ら「ホーム」と呼ばれる公営安楽死施設に入るシーン。
 ベッドに横たわったロビンソンの前のワイドスクリーンに山、海、夕焼けと美しい自然の風景が広がる中、ベートーベンの交響曲第6番「田園」が流れ、この老人が目を開けたまま息を引き取るシーンは非常に衝撃的だった。

 ぼく自身は当時、すでに安楽死という概念は理解していたけれど、それが大国アメリカの施設で公然と行われ、そこへ自ら望んで入ってゆく老人がふつうに存在している、という設定に驚かされたのだ。
 ロビンソンが本作に出演したのち、公開を待たずに79歳で亡くなっていた、ということも雑誌の記事などで知り、子供心に人間の寿命とは何かについて考えるきっかけにもなった。

 ただし、本作におけるヘストンとロビンソンとの関係については、今回の再見で初めてわかった部分も多い。
 新聞のような活字メディアがなくなり、本も「交換所」と呼ばれるさびれた図書館にしか保存されていないこの世界で、読書による豊富な知識を持つ老人ロビンソンは、文字通り「本」と呼ばれる〝生きたデータベース〟のような存在だったのだ。

 一方、高額所得者専用のマンションには、若くて美しい女性が「家具」として常備されている、という設定になっている。
 このマンションに住んでいた大手食品メーカー・ソイレント社の取締役ジョセフ・コットンが暗殺され、刑事のヘストンが調査を進めるうち、プランクトンの合成食品「ソイレント・グリーン 」に隠された恐るべき秘密にぶち当たる、というのがお話の本筋。

 しかし、昔見たときもそうだったが、「本」の老人、「家具」の女性、公営安楽死施設の「ホーム」といった秀逸なアイデアに比べると、「ソイレント・グリーン 」の正体は布石の打ち過ぎで予想でき、ラストはいまひとつ衝撃に乏しい。
 オススメ度B。

(1973年 アメリカ=MGM 98分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

78『狼は天使の匂い』(1972年/仏)B
77『さらば友よ』(1968年/仏、伊)B
76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
73『墨攻』(2006年/中、日、香、韓) A
72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
69『Uターン』(1997年/米)B
68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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