『シザーハンズ』(NHK-BS)

Edward Scissorhands

 ティム・バートンが製作・監督・原案を手がけ、のちに名コンビとなるジョニー・デップと初めて組んだ初期の代表作。
 製作当時27歳だったジョニデの演技はいま見ても素晴らしく、個人的には『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジャック・スパロー以上の当たり役だと思う。

 中産階級の一戸建てが建ち並ぶ住宅街で化粧品のセールスをしている主婦ペグ(ダイアン・ウィースト)が、町外れにある古城のような家を訪ね、両手がハサミになっている少年エドワード(ジョニデ)を発見。
 彼を不憫に思って自宅へ連れ帰り、自分の夫や子供達と同様、家族の一員として一緒に暮らすことにする。

 エドワードの住んでいた古城がお化け屋敷のような外観なのに対して、ペグの住む住宅街は同じ外観、同じパステルカラーの分譲住宅が並んだ絵本やイラストさながら。
 そこに、レザーの上下に身を包み、長髪をビンビンに立たせ、パンク・バンドのロッカーみたいなメイクをしたジョニデがオドオドしながら現れる。

 この画作りは絶妙の一語!
 バートンの趣味とセンスが反映されているのは間違いないが、衣裳のコリーン・アトウッド(『TIME/タイム』2012年、『トゥームレイダー ファーストミッション』2018年など)、セットを受け持った美術のボー・ウェルチ(『メン・イン・ブラック』シリーズ1997~2012年など)、トム・ダフィールド(『ローン・サバイバー』2014年、『パトリオット・デイ』2017年など)ら、このジャンルの第一人者たちが実にいい仕事をしている。

 エドワードはもともと、古城で暮らしていた発明家(ヴィンセント・プライス)が作り出した人造人間。
 両手のハサミをふつうの手に付け替える直前、その発明家が心臓発作で死んでしまったのだった。

 ちなみに、プライスは映画史上に残るホラー映画の名優で、熱烈なファンだったバートンのオファーを受けて出演。
 その3年後に82歳で亡くなり、本作が遺作になったという奇妙な因縁がある。

 エドワードはやがて、ハサミで植木とペットのカッティングに天才的な手腕を発揮。
 住宅街の主婦たちの美容師まで務め、テレビ番組にも出演し、一躍人気者となってゆく。

 そうした最中、ペグの娘キム(ウィノナ・ライダー、当時19歳)と惹かれ合うようになるのだが、キムのボーイフレンド、ジム(アンソニー・マイケル・ホール)がエドワードに嫉妬。
 ジムの悪巧みにハマったエドワードは、両手のハサミで誤って物や人を傷つけてしまい、周囲の誤解や反発を招いて住宅街での評判も一変、バケモノ扱いされてコミュニティーから疎外されるようになる。

 ここに、よくあるホラー映画のモンスターとは一線を画す、本作の主人公独特の業と哀しみがある。
 エドワードのハサミとは、名作、快作、傑作を作り出して人々を喜ばせるアーチストの道具であると同時に、不用意に使うとたちまち人々を傷つけ、あらゆる物を破壊してしまう凶器と化すのだ。

 そして、エドワードは最終的に、自分の身とキムを守るためとはいえ、そのハサミで人の命を奪うことになる。
 当然のことながら、殺人という罪を犯したエドワード、彼をかばって逃したキムにも、本当の意味での幸せは訪れない。

 ハッピーエンドではなくバッドエンドで、本質的には苦い物語なのに、見終わったあとには、ああ、いい映画を見たなあ、という印象が残る。
 これぞモンスター・ファンタジーの傑作!

 オススメ度A。

(1990年 アメリカ=20世紀FOX/日本公開1991年 105分)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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