『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(セルDVD)

 前項『暴力金脈』(1975年)と同じく、笠原和夫がオリジナル脚本を書いた任侠映画。
 もともとは東映の『日本大侠客』(1966年)として書かれたシナリオで、これを監督したマキノ雅弘が大映でセリフリメイクした作品である。

 主人公の吉田磯吉は明治30年ごろ、北九州・若松のゴンゾ(沖仲仕)を束ねる親分として頭角を現し、のちに国会議員まで上り詰めた近代ヤクザの祖とされる人物。
 東映版では鶴田浩二がこの吉田に扮し、彼の人生に重要な影響を与えた芸者・お竜を藤純子が演じている。

 こちらはビデオソフト化されていないので想像するしかないのだが、『映画脚本家 笠原和夫 昭和の劇』(2002年/太田出版)に掲載された笠原の述懐を読むと、主役のカップルが鶴田に純子だからバッチイ真似はさせるなと、プロデューサーの俊藤浩滋から随分制約を受けたらしい。
 一方、この大映版は吉田を勝新太郎、お竜(役名は「おりん」に変更)を安田道代が演じており、やはり想像するしかないけれど、イメージとしては東映版よりも実在の人物に近いような気がする。

 ストーリーは単純で、やんちゃが過ぎて実家を追い出され、行き着いた朝鮮でもトラブルを起こした磯吉が若松に帰郷。
 姉のスエ(京マチ子)やお竜、子分の亭蔵(津川雅彦)、妻のおふじ(南美川洋子)らに支えられ、若松を牛耳ろうとする博徒・大田黒一家に立ち向かう。

 一見して感じるのは、荒々しさの中にも純真さを感じさせる勝新ならではの魅力とキャラクター。
 大田黒一家の代貸・桜井義三郎を演じる岸田森は、不気味さを漂わせる独特な個性を確立させる前で、似合わないヤクザ役をやたらと居丈高に演じているのが面白い。

 東映版では、この桜井を松方弘樹の父・近衛十四郎が演じていた。
 そして、この大映版では、松方弘樹が磯吉を襲撃する朝鮮帰りの刺客・小野田修次に扮し、なかなかの熱演を見せている。

 なお、『無冠の男 松方弘樹伝』(松方弘樹、伊藤彰彦共著 2015年/講談社)によると、笠原の本には磯吉と小野田の対決は描かれておらず、現場で勝が乗り気になり、急遽加えられたシーンだという。
 というわけで、昔の邦画ファンには見どころいっぱいで、現代でも1時間41分しっかり楽しませてくれる。

 東映版がビデオソフト化されていないため、見比べることができないのがつくづく残念。
 オススメ度B。

(1970年 大映 101分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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