『オール・アバウト・マイ・マザー』(WOWOW)

Todo sobre mi madre, All about My Mother

 エロチック・コメディの傑作『抱擁のかけら』(2009年)で知られるスペインの名匠ペドロ・アルモドバルが1999年にメガホンを取った作品。
 次から次へと悲惨な運命に見舞われながら、それでも明るく逞しく生きていく女たち、ゲイたちの群像劇である。

 主人公はマドリードで臓器移植コーディネーターを生業としているマヌエラ(セシリア・ロス)。
 毎日毎日、まずオフィスで病院の手術室からドナーが死んだという連絡を待つことから仕事が始まる、という彼女の日常を紹介する出だしからして人を食っている。

 セシリアはシングル・マザーで、女手一つで育てた一人息子エステバン(エロイ・アソリン)の誕生日、ふたりして『欲望という名の電車』を観劇。
 帰りに主演女優ウマ・ロッホ(マリサ・パレデス)の出待ちをして、やっと出てきたウマにサインをもらおうとしたエステバンが車にはねられて死んでしまった。

 悲嘆に暮れたマヌエラは、息子の死を知らせようと行方不明の元夫ロラを探しにバルセロナへ向かう。
 そこで偶然にもウマと出会い、彼女に息子が死んだことを聞いてもらおうと楽屋に行くと、ちょうど舞台で共演するはずの女優が行方不明になったところ。

 マヌエラはウマの熱烈なファンで、蒸発した女優がやるはずだった役のセリフもすべて覚えていたため、マヌエラが代役を務めることになる。
 あげく、息子のことを口に出せないまま、ウマに気に入られて付き人の後釜に収まった。

 付き人の仕事をしながら元夫ロラを探しているうち、そのロラの子供を妊娠している上、エイズを感染されたという尼ロサ(ペネロペ・クルス)が登場。
 このにぎやかな人間模様に性転換した娼婦アグラード(アントニア・サン・フアン)が加わり、『抱擁のかけら』と同様、悲惨なのに明るく、笑えるドタバタ劇が繰り広げられる。

 現代的な性の問題を織り交ぜながら、フェリーニ的な人生讃歌に仕上げられた愛すべき佳作。
 オススメ度B。

(1999年 スペイン/日本配給ギャガ、東京テアトル 2000年 101分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る