『ヒッチコック/トリュフォー』(WOWOW)

Hitchcock/Truffaut

 この映画の元ネタとなったロングセラー『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(1981年/晶文社=画像下)は映画表現の教本とも言うべきヒッチコック作品の解説書。
 ヒッチコックを師と慕うフランソワ・トリュフォーが全作品53本の1本1本について細かい質問を繰り返し、ヒッチコックが懇切丁寧に、ときにジョークを交えながら答えている。

 ヒッチコックとトリュフォーの濃密なやり取りもさりながら、その会話の内容に合わせた写真が豊富に使われていることが大きな特徴。
 ぼくはこの本を1982年に購入して36年、いまだにBS放送などで未見のヒッチコック作品を見るたびに読み返し、唸ったり驚いたりしている。

 本作は、その稀有な映画の教科書の映画版であり、メイキング・ドキュメンタリーでもある。
 女性の通訳を間に挟んだヒッチコックとトリュフォーの肉声が聴けるだけでも、ぼくのようなオールドファンなら鳥肌が立つほどうれしいはず。

 ヒッチコック作品や『映画術』に影響を受けた現代の映画作家も多数登場。
 デヴィッド・フィンチャー、ウェス・アンダーソン、ジェームズ・グレイ、ポール・シュレイダー、マーティン・スコセッシ、黒沢清などの発言が興味深い。

 とりわけ面白かったのは、アクターズ・スタジオのメソッド演技に対するヒッチコックと後進の監督たちとの見解の違い。
 ケーリー・グラントやイングリッド・バーグマンのようなスターを好んで起用していたヒッチコックは、「必然性がわからなければ演技できない」と主張するアクターズ・スタジオ出身の俳優が嫌いだった。

 『私は告白する』(1953年)では主演のモンゴメリー・クリフトと対立し、クライマックスで目の前のビルを見上げる演技をさせるのに一苦労。
 たとえ俳優が納得できなくても、ストーリーの上では不自然な動きであっても、映画表現の上で必要な演技というものがある、とトリュフォーに主張している。

 ところが、フィンチャーの考え方はまったく逆で、「私はアクターズ・スタジオの俳優でなければ安心して使うことができない」とコメントしている。
 何故なら、彼らはどういう状況でどのような演技をするべきか、監督がいちいち細かいことを言わなくてもすでに理解しているから、というのだ。

 コメンテーターたちによる『めまい』(1958年)、『サイコ』(1960年)、『マーニー』(1964年)など、アメリカ時代の代表作の分析も面白い。
 欲を言えば、もう少し尺を伸ばしてでも、『三十九夜』(1935年)、『第3逃亡者』(1937年)など、イギリス時代の作品にもスポットを当ててほしかった。

 オススメ度B。

(2015年 アメリカ、フランス 81分)

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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