
りくりゅうペアの金メダル獲得で注目を集めたひとりに、テレビ中継の解説者を務めていた高橋成美さんがいる。
多くの国民の記憶にすり込まれただろう「すごい!すごい!」の連呼、「こんな演技、宇宙一ですよ!」という絶賛は、翌日の東スポの1面の見出しにもなった。
知人にその高橋さんの熱心なファンがいて、「成美ちゃんにもすごいストーリーがあるからぜひ聞いてほしい」と言う。
さっそく、タブレットで高橋さんの現役時代の動画を見せてもらい、知人のレクチャーを聞いてつくづく思ったのは、ペア競技における相性の重要さ、人生における巡り会いの大切さだ。
フィギュアファンにはよく知られているように、高橋さんも現役時代はジュニア時代から名の知られたペアの選手。
日本人やロシア人など数多くのパートナーと組んだ中で、最も相性がよかった相手がベトナム難民とカンボジア難民だった両親の間に生まれた2歳年上のカナダ人、マーヴィン・トランだったという。
2011年の世界フィギュア、12年の世界国別対抗戦のエキシビジョンの動画を見ると、確かに高橋さんとトランの息がピッタリ合っていて、大技が最高のタイミングで決まり、お互いに心底から信頼し合っていることが伝わってくる。
実際、両大会ではともに3位入賞を果たした。
高橋・トランペアはこの時点で2014年ソチ五輪への出場が期待されていた。
が、トランの日本での居住実績が足りないなど、様々な理由で彼の日本国籍取得が叶わず、五輪を2年後に控えた12年、高橋さんはペア解消を決断。
そして、トランに代わってペアを組むことになったのが、りくりゅうの木原龍一。
しかし、ソチ五輪には出場を果たしたものの、団体戦は総合5位(SP8位・FS5位)、ペア個人戦はSP18位、その後の世界選手権でもSP17位にとどまり、FSには進めなかった。
高橋ファンの知人によると、木原との相性はよくなかったようで、リフトのミスで高橋がリンクに投げ出されてしまうこともあったという。
当時の動画を見ると、お互い振付通りの演技はしていても、トランとは違う距離感とぎごちなさが感じられ、ショーとして見ていても華やかさや盛り上がりに乏しい。
結局、木原は高橋さんとのペアを解消した後、15~19年、須崎海羽とのペア時代を経て、現在の三浦璃来とのペアを結成。
りくりゅうとなってからどのような試練と苦労を経て今回の金メダルを獲得したかは、すでに様々なメディアで語られている通りである。
りくりゅうの成長と快挙について、高橋さんは「過去に嫉妬を感じたこともある」と正直な気持ちを打ち明けている。
そういう時期を経て、現場でりくりゅうの見事な演技を間にあたりにしたからこそ、万感の思いを込めて「すごい!すごい!すごい!すごい!」「宇宙一ですよ!」と叫んだのだろう。
そして、演技終了後に高橋さんのインタビューを受けた木原は、「成ちゃんがいたから俺たちが来られた」と直接感謝を伝えていた。
りくりゅうが成し遂げた奇跡には、こういう人生の紆余曲折と運命を感じさせるサイドストーリーもあったのです。
