
北関東のヒリヒリした人間関係を描いたら右に出る者のない映画監督・入江悠の最高傑作。
12歳で母親に売春を強制され、覚醒剤中毒になりながら、様々な人々の助けを得て懸命に立ち直ろうとする少女・杏の姿が描かれる。
とはいえ、ジョン・カサヴェテスに多大な影響を受けた入江監督のことだから、あざとく涙を誘うようなメロドラマにはしていない。
河合優実演じる杏に寄り添うようでいて突き放し、冷たいようでいて温かみのある視線を注いで、この少女の酷薄な運命を追ってゆく。
杏と彼女を取り巻く人間関係に暗い影を落としているのが2020年のコロナ禍。
逃げ場をなくし、引きこもることを強いられ、ふつうにしゃべることすらままならなかったあの時代の鬱屈した雰囲気を、この映画は見事に再現している。
エンディングに近く、杏が散らかったのアパートのベランダから、東京オリンピックの開幕を告げるブルーインパルスを見上げる場面には、思わず胸が詰まりそうになった。
あのスポーツイベントは、市井の片隅でうずくまるように生活している杏のような人たちにとって、どんな意味を持っていたのだろうか。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑