
安部公房の代表作を勅使河原宏が映画化、キネマ旬報の邦画ランキングで1966年度第5位に選出された作品である。
化学薬品工場での事故によって顔に大火傷を負った壮年の男が、マスクをかぶって他人を装い、人間関係の危うさに直面する、という物語。
主人公を演じるのは仲代達矢で、白い包帯で顔を覆われたミイラ男のような格好で登場し、序盤は火傷を負った顔をほとんど見せない。
担当医の平幹二朗が開発したマスクをつけて初めて顔をさらすのだが、自分の顔を「他人の顔」に見せるこの役は、仲代にとってもさぞかしやりがいがあっただろうと推察される。
白いドーランを厚塗りし、あまり表情を変えずに演技しており、巧みに「作り物」感を表現しているところは劇場公開当時も評価されたようだ。
ただし、如何せん仲代本人の顔なので、どうしても「他人の顔」とは感じられない、というもどかしさが終始つきまとうのも確か。
マスクをつけて他人になりすました仲代は、自宅とは別に他人名義でアパートの部屋を借り、別人としての人生を楽しもうとする。
その仲代につきまとうアパートの管理人の娘が市原悦子で、いいトシをしていつもヨーヨーで遊んでいる知的障害者、というキャラクターを不気味さたっぷりに演じており、実に怖い。
その一方、仲代は自分自身としてではなく、他人として妻の京マチ子を自分のアパートに連れ込む。
誘われるがままに仲代についてきた妻は、しかし、相手が自分の夫であることを最初から見破っていた。
監督の勅使河原宏は安部公房の原作の主題をしっかり把握して映画化しており、見応えは十分。
しかし、現代の若い映画ファンが観ても面白いかどうかとなると、意見の分かれるところだろう。
旧サイト:2015年07月10日(金)Pick-up記事を再録、修正
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら