『アメリカン・マンハント:O・J・シンプソン』(Netflix)🤗😱

American Manhunt: O.J.Simpson
全4エピソード 約300分 アメリカ=Netflix 16+

1994年、O・J・シンプソンの元妻ニコールと彼女の友人ロナルド・ゴールドマンが刃物で惨殺され、どう見ても犯人に違いないと思われたシンプソンが無罪となり、世界的大反響を巻き起こした事件のドキュメンタリー。
当時、白いブロンコで逃亡を図ったシンプソンがロス市警のパトカーに延々と追われ続けている空撮映像は、日本のニュース番組でも流された。

僕自身、シンプソンの出演した映画『タワーリング・インフェルノ』(1974)、『カサンドラ・クロス』(1976)、『カプリコン1』(1978)のファンだったこともあり、一連の顛末は今も断片的ながらはっきりと記憶している。
ブロンコによる逃走劇はもちろん、シンプソンが有名弁護士を集めて「ドリーム・チーム」と呼ばれる弁護団に囲まれ、無罪判決が出た途端にガッツポーズを取った写真のインパクトは強烈だった。

本作では事件発生から無罪評決以後まで、事件に関わった関係者に詳細なインタビューを重ねており、微に入り細を穿って当時の経過を再現。
ナイフで喉を切り裂かれたニコールとロンの遺体の写真のむごたらしさ、ブロンコを運転していたのがシンプソンではなく元アメフト選手の友人アル・カウリングスだったこと、シンプソンは助手席で拳銃を頭に当てて自殺を仄めかしながら刑事とやり取りしていた電話の内容など、序盤から初めて知る事実の数々にグイグイ引き込まれる。

この裁判には1991年、ロス市警の警官4人によるロドニー・キング暴行事件、及びこれがきっかけとなって翌92年に発生したロサンゼルス暴動が多大な影響を及ぼしていた、ということも今回初めて知った重要なポイントの一つ。
最初にシンプソンが犯人だとする証拠を発見したマーク・ファーマン刑事もまたレイシストであり、彼が友人の脚本家ローラ・マッキニーとの会話で黒人差別発言を連発していたテープが法廷に提出され、世論と陪審員の見方は一気に白人レイシストによる陰謀説へと傾斜していった。

しかし、本当にシンプソンはロス市警と検察側にハメられたのか?
本作では当時の弁護士と検察官、ニコールの遺族が登場し、30年後の今、それぞれの主張とその裏側にあった様々な葛藤とドラマを語り明かす。

とりわけ、裁判後に辞職したファーマンが「今もレイシストだと言われたら反論できない」と明かし、「死ぬまでこの苦しみを背負っていくことになるだろう」と吐露している言葉が重い。
一方、シンプソンのエージェントだったマイク・ギルバートは、シンプソンを擁護し続けたために仕事と信用を失い、シンプソン本人から思わぬ告白を受けて愕然とする。

刑事事件では無罪評決を受け、自由の身となったシンプソンだが、民事裁判で有罪とされ、3350万ドル(当時のレートで36億8500万円)の賠償金を支払うよう命じられる。
これを拒否したシンプソンは賠償金と税金の未払いにより、自宅や資産を差し押さえられ、2007年に強盗事件を起こして懲役33年の判決を受けた。

緻密な事実の積み重ねに圧倒された4エピソード、約300分。
観るまでは長いと思っていたが、終始画面から目が離せず、重要な証言は何度も見返し、終わったらあっという間だった。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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