『父の背番号は16だった』川上貴光😁😭😢😳🤔🤓

発行:朝日新聞社 朝日文庫 定価880円=税込
第1刷:1995年2月1日 単行本発行:1991年 朝日新聞社

きょうはお休みなのにとくに予定もないので、久しぶりにサイクリングに出かけようか、それとも映画でも観に行こうか、散々考えたあげく、読みかけの本を読了することに費やしてしまった。
それがこの川上哲治の評伝で、ちょうど半分まで読み進めていたところ、この先どうなるのかと気になって仕方がなかったのである。

巨人の川上といえば、選手としては打撃の神様と呼ばれ、監督としてはV9(1965~73年の9年連続リーグ優勝と日本一)を達成した名将。
ただし、人間的には怜悧で勝負に厳しく、ユニフォームを脱いでからもドンと異名を取り、球界に隠然たる影響力を持ち続けた黒幕的人物というイメージも根強い。

しかし、長男の貴光(よしてる)氏が著した本書を一読し、俺は37年も野球記者をやっているのに、川上さんのことを何も知らなかったんだなあ、と思わないではいられなかった。
本書に登場する川上はもともと熊本のやんちゃ坊主で、当時は父親が家業を破綻させたために新聞配達をして家計を支える傍ら、母親が仕事で外に出ている時は弟や妹のために煮炊きまでしなければならなかった。

野球で熊本工に越境入学してからも、様々なトラブルからいったん国元の人吉に帰らざるを得ず。
巨人に入団後は太平洋戦争で兵隊に取られ、最前線に送られることこそなかったものの、戦後はいったんプロ野球選手の道を諦め、郷里でしばらく百姓をやっている。

のちに「打撃の神様」と呼ばれるほどの技術を極めた川上は農作物の栽培にも人一倍研究熱心で、堆肥を作る際には自分で舐めて出来具合を確かめていた。
このあたりは息子でなければ聞き出せなかったエピソードであり、ぐいぐい引き込まれる。

後半の読みどころは、現役選手として以上に、監督として直面した内紛とトラブルの数々。
とくにシーズン途中で退団した別所毅彦、長嶋茂雄のホームスチール事件でぶつかりあった広岡達朗との確執はこれほど深刻だったのかと、大変驚かされた。

著者は文章指導を野球小説の第一人者・海老沢泰久氏に仰いでおり、僕も愛読した〝海老沢節〟とも言うべきフレーズが頻出する。
そうしたディテールも含めて、今更ながら、プロ野球ファン、わけても巨人ファンには必読の書であると強調しておきたい。

😁😭😢😳🤔🤓

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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