『敵』(WOWOW)🤗😱

108分 モノクロ 製作:2023年 公開:2025年
配給:ハピネットファントム・スタジオ、ギークピクチュアズ

筒井康隆は僕が一時期、最も愛読していた作家で、本作の同名原作もハードカバーで出版された1998年、すぐに買って読んでいる。
ただし、いかにも老境に入ったことを強く感じさせる作風に違和感を感じ、このあたりから筒井作品の新作を追っかけて読むことをやめてしまうきっかけにもなった。

そういう個人的思い出のある小説を『クヒオ大佐』(2009年)、『パーマネント野ばら』(2010年)、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『紙の月』(2014年)など、こちらも10年前まで追っかけて新作を観ていた吉田大八監督が自ら脚本を書いて映画化。
最近、野球の仕事が忙しく、今年1月の劇場公開時には観逃してしまったが、早くもこうしてWOWOWで観られたのは非常にありがたい。

主人公は妻に先立たれた77歳の元大学教授・渡辺儀助(長塚京三)で、映画の前半は彼が毎朝決まった時間に起床し、自炊している一人暮らしの生活が淡々と描かれる。
作る料理は魚の切り身、鶏肉の串焼き、豚肉炒めと目玉焼き、蕎麦や冷麺で、白菜キムチが当たって下血したあたりから、儀助が徐々に死を意識している描写が増えていく。

このあたりまでは、62歳で一人暮らしをしている僕の現実とかぶるところも、正直、ある。
時折、家を訪ねてくるかつての教え子・鷹司靖子(瀧内公美)に恩師として接しながら欲情を滲ませ、バーで知り合った学生・菅井歩美(河合優実)にのぼせて大金を貸してしまうあたりなど、俺も女性には気をつけなければ、と感じないではいられない。

映画の半ば過ぎ、タイトルの「敵」が迫っていることを知らせるメールが儀助のMacに届く。
このへんから儀助自身もうつ病か、認知症か、次第に精神を病むようになり、現実とも悪夢ともつかない描写が延々と続く。

クライマックスは舞台『クヒオ大佐の妻』(2017年)、オチは『パーマネント野ばら』を彷彿とさせ、吉田大八作品のファンなら多少察しがつくかもしれない。
それでも、儀助を演じる現在80歳の長塚京三の名演もあり、大変楽しめるエンターテインメントであると同時に、ズシリと重い印象を残す文芸作品にもなっている。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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