竹原の寝具店にて🎋🐇

たけはら町並み保存地区にあるお好み焼き店〈ほり川〉は、アニメ『たまゆら』(2011年)に登場する〈ほぼろ〉のモデルとなった

竹原滞在中は、老健(老人保健施設)に入所している母親に必要な物を届けることが、息子の僕に課された重要な使命である。
今回は、母親を日谷眼科に連れて行った17日火曜日、特定医療費受給者証を老健に持参した。

受給者証は昨年更新したばかりだったが、昨年9月に父親が亡くなって、母親の所得区分が変わったのに伴い、受給者証の適用区分も変更されたため、新しいものが再交付された。
これがないと医療費の2割負担が適用されないので、確実に老健の担当介護士に渡しておく必要があったのです。

これを手渡した際、介護士さんに新しいものを買ってきてほしいと言われたのが、母親がふだん椅子に乗せている真ん中に穴の空いた円座布団。
現在は老健にあるものを使用しているが、古くて厚みに乏しくなっているから、母親にずっと使ってもらうのなら新しい低反発系の円座布団を購入したほうがいいでしょう、というわけ。

そんなのはお安い御用だと、翌日の18日水曜、さっそく実家の近所のホームセンターに行ってみたんですが、なかなか代わりになるような商品が見つからない。
ジュンテンドーの円型クッションは厚さ6.5㎝もあって、椅子に乗せて使うには厚過ぎる。

ダイソー、ファッションセンターしまむらで尋ねると、どちらも品切れで入荷待ちの最中。
それならと100円ショップのセリアも覗いてみたものの、置いてあるのはごくふつうの座布団だけ。

しまむらの店員さん曰く、昔は竹原にも座布団などを揃えた店が他にあったけれど、昨年8月にホームセンターのナフコが、11月にスーパーのゆめタウンが相次いで閉店。
現在、同じような大型店舗は営業していないと言われて、水曜日は実家に退散せざるを得ず。

その夜、ネットを検索してみても、こちらにあるのも厚過ぎる円クッションばかり。
一夜明けた19日木曜、また老健へ自転車を走らせ、僕の記事が掲載された大スポを2部、母親の遺族年金の振込通知書などを母親の元に持参したら、「そんなに急がなくてもいいから」と母親や介護士さんに言われました。

とはいえ、こういう案件は、東京に帰ってから改めて探すより、竹原滞在中に解決しておきたい。
そこで、スマホで「竹原 座布団」で検索したところ、「片山寝装」という店が引っかかった。

竹原で一番の老舗寝具店の店構え

竹原駅前商店街から脇道に入ったところにある小さな個人商店で、店構えがいかにも古く、最初は「こんにちは」と声をかけても店員が出てこない。
何度か呼びかけたら女将さんと思しき人が出てきて、円座布団を探してるんですが、と伝えると、「ちょうど一つ残ってますよ」という、実にうれしいお返事。

さっそく現物を見せてもらったら、これが大きさ、厚み、ともにドンピシャリで、素材も介護士さんが望んでいた低反発系のポリウレタン。
いやあ、助かりました! と、ここまでの苦労を女将さんに打ち明けたところ、「それはよかったですね」とこんな話を聞かせていただきました。

「昔は竹原にもいっぱい寝具店があったんですけど、経営者がトシを取って、子供も継いでくれないし、ほとんど潰れてしまいました。
ウチは昭和29年からやっていて、いま2代目なんですけど、私が2代目の嫁で、もうウチだけじゃないかな、その時代からやっとるんは」

円座布団をあちこち探し回って、恐らく今のところ「竹原市内で最後の一つ」が見つかったのは、竹原で一番老舗の寝具店。
加えて、知らず知らずのうちに故郷の寝具販売の現状と歴史を勉強することになった、という一席でした。

20日金曜、やっとこさ母親の元に円座布団を届けると、「これはええわー」と喜んでくれました。
なお、今回はもう少しだけ竹原に滞在する予定です。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る