『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』🤗

The Imitation Game
115分 2014年 イギリス=スタジオ・キャナル、アメリカ=ワインスタイン・カンパニー
日本公開:2015年 配給:ギャガ 

前項『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021年)で正義漢の海兵隊検事を好演していたベネディクト・カンバーバッチを見ていて思い出した作品。
最近はマーベルのドクター・ストレンジ役で人気を博しているが、個人的には本作がカンバーバッチのベストだと思う。

カンバーバッチが演じているのは、コンピュータの始祖と言われるイギリスの数学者アラン・チューリングで、彼が第二次世界大戦の最中、ナチス・ドイツの暗号エニグマ解読に取り組んだ実話モノ。
いわゆる戦史ミステリーのような映画かと思って見ていたら、途中からチューリングの〝隠された素顔〟に主題が移り、非常に重厚な人間ドラマが展開される。

1951年のマンチェスターの住宅街、盗難事件の通報を受けた警官たちが一軒の民家を訪ねると、待ち構えていたチューリングは傲岸不遜な態度で追い返してしまう。
その言動に不信感を抱いた刑事ノック(ロリー・キニア)は、チューリングがソ連のスパイではないかと疑いを抱き、警察署に呼びつけて事情聴取を始めると、この偏屈な数学者は驚くべき告白を始めた。

ここからお話は過去に遡って本筋に突入。
イギリスがドイツとの開戦に踏み切った1939年、チューリングが政府の最高機密機関に参加し、エニグマ解読に没頭する様が描かれてゆく。

傲慢で独善的なチューリングは当初、自分ひとりで研究に打ち込みたいと主張するが、政府暗号学校の長官でもあるデニストン海軍中佐(チャールズ・ダンス)はチームで計画を進めるようにと命令。
仕方なくリーダーに指名されたチェスの英国王者アレグザンダー(マシュー・グード)の下で任務に当たっていたところ、自分のほうが優れていると自負するチューリングは事あるごとにメンバーと衝突する。

痺れを切らしてMI6の幹部に直訴し、チャーチル首相のお墨付きを得て自分がリーダーに昇格。
自ら引き入れた女性数学者ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)の協力を得て解読に邁進し、意気投合したジョーンと婚約する。

しかし、海軍中佐は当時から、彼にソ連のスパイではないかという疑惑の目を向けていた。
さらに、チューリング自身、もし露見したら罪に問われる深刻な〝秘密〟を抱えていたのである。

映画が俄然面白くなるのは、この〝秘密〟が明らかにされてからだ。
エニグマを解読するマシンの製作が思うように進まず、海軍中佐から解雇するぞとプレッシャーをかけられ、精神的にも追い詰められたチューリングは、ついにジョーンに向かって重大な告白に踏み切る。

チューリングの抱えていた苦悩は極めて普遍的なもので、現代でも共感を抱く人は少なくないに違いない。
しかも、彼は国家に多大な貢献を為し、世界大戦の終結を2年早めたと言われるほどの功績を挙げながら、政府によって死ぬまで沈黙を強いられる。

チューリングに対して英国首相が公式に謝罪したのは、彼の没後50年以上が経過した2009年だった。
このテロップに研究資料を燃やすチューリングの姿がかぶさる場面では、思わず目頭が熱くなった。

事実関係が相当端折られているからか、お話には所々、納得しかねる部分もある。
また、インディペンデント系資本による低予算映画ゆえ、ミニチュアの戦艦を使用した海戦の場面が安っぽく見えるのも如何ともし難い。

しかし、チューリングを演じるカンバーバッチの熱演、好演、力演は、そうした本作の欠点を補ってあまりある。
チューリングはカンバーバッチのためにあるような役と言うべきか、カンバーバッチはチューリングの名誉を回復するために現れた俳優かもしれないと言うべきか。

採点は85点。
(オススメ度A)

旧サイト:2015年03月15日(日)付Pick-up記事を再録、修正

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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