『影の軍隊』(NHK-BSP)🤗

L’Armee des Ombres
145分 1969年=フランス 日本公開:1970年 配給:東和

いまはこういう便利な時代だから、数十年前に名画座や二番館で観た古典的作品をBSデジタル放送で観直し、すっかりきれいになった画質に驚かされることが少なくない。
名画座、二番館というのは、現在も残っている飯田橋のギンレイホールや池袋の新文芸坐のように、旧作を期間限定、割安料金で公開している映画館のこと。

昔、そういう劇場でかかる古い映画はフィルムが劣化していて、傷が入っていたり、波状毛のようなゴミが貼りついていたり、ピンク色に変色していたりすることが珍しくなかった。
かれこれ40年ほど前の学生時代、神田のアテネ・フランセ文化センターで初めて観たこの映画も、最初から最後までピンク色だったと記憶している。

しかし、今回NHKの〈BSプレミアムシネマ〉で放送された本作は、昔観たピンク色とはまったく色調が異なり、終始シックで深みのあるカラー。
画質の状態によって感動の質まで変わったりはしなかったものの、この映画の場合はほぼオリジナルの状態で再見したことで、より本質的な部分に触れることができたような印象を覚えた。

映画全体を貫く緊張感、一片の救いや希望も示さずに終わるストーリーが、ピエール・ロムのキャメラによる暗鬱な色合いと見事に溶け合っている。
大袈裟に言えば、『影の軍隊』とはこういう映画だったのかと驚き、感動を新たにしたほど。

本作は第2次世界大戦中、ナチス・ドイツ占領下のフランスにおけるレジスタンス(抵抗運動)を描いた映画である。
『昼顔』(1929年)で知られるジョゼフ・ケッセルの原作が下敷きになっているが、実際にレジスタンスに参加した監督ジャン=ピエール・メルヴィルの体験と戦争観が色濃く反映されている。

これはメルヴィル本人がルイ・ノゲイラによるインタビュー本『サムライ ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生』(2003年/晶文社)で自ら明らかにしている通り。
そのためか、この映画にはアメリカの戦争映画のような英雄は登場せず、英雄的な行為は描かれていても興奮や清涼感はまるで感じさせない。

ストーリーの骨子となっているのは、ふたりの裏切り者に対する〝処刑〟だ。
前半、レジスタンスの中心的闘士、主人公フィリップ・ジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)は、ナチスへ密告していたポール・ドゥナ(アラン・リボール)という若者を仲間とともに殺す。

メルヴィルはこの処刑に至るまで40分を費やし、ポールがどのような密告をしたはあえて詳しく説明せず、ただレジスタンスを続けるには裏切り者は始末しなければならなかった、という組織の掟だけを観る者に突きつける。
銃声のする拳銃は使えないため、布巾を首に巻いて絞殺するシーンは、今時のサスペンス映画に比べればソフトな描写かもしれないが、それでも十分に生々しく重苦しい。

後半で処刑されるのは、ジェルビエの命の恩人でもあるマチルド(シモーヌ・シニョレ)。
彼女は優秀な闘士だったが、娘の写真を持ち歩くのはやめるようにというジェルビエの忠告だけは聞き入れようとせず、ナチスに逮捕されて写真を脅迫の材料にされてしまう。

レジスタンスのボス、リュック・ジャルディ(ポール・ムーリス)は、マチルド自身が望んでいることだとして、処刑を決断。
ナチスに釈放されてエトワール広場を歩いていたマチルドに銃口を向けたのは、彼女の処刑に最も反対していたル・“ビルド”(クリスチャン・バルビエ)だった。

続くエンディングで、ジェルビエ、ジャルディ、ビルド、ル・“マスク”(クロード・マン)らレジスタンスの中心メンバー4人が終戦を前にいずれも非業の死を遂げたことがテロップで説明される。
最後に提示されるジェルビエの最期は、メルヴィルがケッセルの原作を改変し、実在した闘士の死に際のエピソードが使われているという。

ロムのキャメラが映し出した男たちの横顔に、エリック・ド・マルサンの印象的なメロディーがかぶさったこの幕切れもまた、胸にズシリと重い余韻を残す。
フランス本国や元レジスタンスの活動家の間では批判的意見も少なくなかったようだが、現実に即したレジスタンスを描いた映画として、今後も長く記憶されるべき名作だろう。

オススメ度A。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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