『復讐無頼 狼たちの荒野』(ザ・シネマ)😉

Tepepa
128分 1968年 イタリア、スペイン 日本劇場未公開 テレビ放映タイトル『復讐の三匹』

日本で大変なマカロニウエスタン・ブームが巻き起こり、イタリア製西部劇なら何でもかんでも、日本語吹替版にしてでも映画館で上映されていた1960年代後半、何故か劇場未公開で、テレビ放映のみにとどまった作品。
その上、イタリア製B級映画クロニクルの最高峰、二階堂卓也著『マカロニアクション大全』(1999年/洋泉社)にすら1行も触れられていない。

しかし、このマカロニウエスタン、映画としての完成度こそ高くはないものの、ストーリーは実によく練り上げられており、日本で言えば笠原和夫のような文学的香りすら漂う。
そこで、本作についてはこのフランコ・ソリナスによる脚本に焦点を絞って感想を記しておきたい。

開巻、エンニオ・モリコーネのテーマ曲(これが名曲!)に乗って現れたイギリス人の医師ヘンリー・プライス(ジョン・スタイナー)が、メキシコ辺境の刑務所に収容されていた革命の闘士ヘスス・マリア・モラン、通称テペパ(トーマス・ミリアン)を銃殺寸前のところで脱獄させる。
だが、ヘンリーがテペパを逃がしたのは同情心からではなく、自分の婚約者(アンナ・マリア・ランシアプリマ)をレイプし、自殺に追い込んだテペパを自分の手で殺し、復讐を果たすためだった。

ところが、逃亡を続けていた最中、テペパはヘンリーから拳銃を奪って逃走。
取り残されたヘンリーは、刑務所から追ってきたカスコッロ大佐(オーソン・ウェルズ)とその部下に捕まってしまう。

ヘンリーがぶち込まれた檻には、ペドロ(ホセ・トーレス)とペキート(ルチアーノ・カーサモニカ)というメキシコ人の小作人親子がいた。
ペドロは両手の手首から先がなく、風呂で自分の身体を洗えないことから、「おれはエル・ビオホ(シラミ)と呼ばれてるんだ」とヘンリーに語る。

ペドロは文盲の多い小作人にしては珍しく読み書きができ、小作人仲間を革命へと煽動する恐れがあるため、地主によって両手首を切断されたのだ。
この描写とキャラクター設定はなかなか強烈で、ソリナスの共産主義者的作家性がうかがえる。

ペドロの息子ペキートはヘンリーに向かって、「おじさんはアメリカ人? メキシコは好き? ねえ、メキシコは好き?」と執拗に聞く。
この描写はメキシコ人の純粋な愛国心の発露なのだが、鬱陶しいと感じたヘンリーは看守を呼びつけ、賄賂を渡して檻から看守の部屋に移らせてもらう。

そこへテペパが舞い戻って刑務所を爆破し、革命の仲間、ペドロとペキート親子とともにヘンリーも脱獄させ、自分のアジトへ引っ張ってゆく。
逃避行をともにしているうち、テペパはかつて大統領が権力を握るために利用され、父親の死に目に会えなかったという過去があったことがわかり、ヘンリーはテペパに共感を覚えるようになる。

文盲のテペパは大統領への助力を求める手紙をヘンリーに書かせ、これをペドロに持たせて大統領の下へ使いに出す。
しかし、テペパが邪魔になっていた大統領はペドロを使ってテペパを殺害しようと画策し、これを事前に察知したテペパは裏切り者のペドロを容赦なく射殺。

ヘンリーはペドロの息子ペキートを連れてテペパの下から脱出し、アメリカへ逃げようと図る。
そこでまたカスコッロ大佐につかまり、大佐とテペパ一派の最後の激戦に立ち会わされる羽目になった。

テペパは仇敵のカスコッロを倒したものの、自分も撃たれて半死半生の状態。
手術を依頼されたヘンリーは、テペパの身体から弾丸を取り出してやりながら、メスを突き立ててテペパを殺し、レイプされた婚約者の復讐を果たす。

ついに長年の目的を遂げ、メキシコから去ろうとしていたヘンリーに、突然ペキートが歩み寄る。
「連れていってほしいのか?」とヘンリーが手を差し伸べた次の瞬間、ペキートはヘンリーに向かって拳銃を撃ち、ヘンリーはその場に倒れて死んでしまった。

何故ヘンリーを殺したのかと問う周囲の大人たちに、「こいつはメキシコが嫌いだからだ」と答えるペキート。
ペキートは父ペドロの敵を討つことより、テペパの後を継いでメキシコの未来を担う人間になる人生を選択したのだ。

クリスティーナが歌う主題歌『憧れのメキシコ』(これも名曲!)が流れて、テペパの笑顔にペキートが馬を駆って戦場に臨む姿がかぶさる。
マカロニウエスタンの作品群の中では、最も感動的なエンディングのひとつに数えていいだろう。

イタリア本国におけるマカロニウエスタンは、富裕層ではなく貧困層に属する学生や労働者が主要観客層で、セルジオ・コルブッチに代表されるB級映画の職人、かつ政治信条的には共産主義者の監督がリードしているジャンルだった。
そうした中、本作やダミアーノ・ダミアーニ監督の『群盗荒野を裂く』(1967年)のように、当時の左派映画人が自らの政治的思想を表現した作品を製作するようになった、というイタリア映画界ならではの背景がある。

本作の脚本、『群盗』のダイアローグを担当したフランコ・ソリナスについては、わが国には詳しい資料がないのだが、やはり当時活躍していた左派映画人のひとりだったらしい。
『群盗』にはやはり開巻から「メキシコは好き?」と繰り返す少年が登場し、「嫌いだ」と答えたアメリカ人ルー・カステルが革命の闘士ジャン=マリア・ヴォロンテ(この俳優も有名な共産主義者)に殺されてしまう。

ソリナスはほかにも『アルジェの戦い』(1965年)や『ケマダの戦い』(1969年)のほか、コスタ・ガヴラス監督の『戒厳令』(1973年)、フランチェスコ・ロージ監督、アラン・ドロン主演の『パリの灯は遠く』(1976年)の脚本も手がけており、とりわけ構成力と人物造形が素晴らしい。
本作は笠原和夫の未映画化脚本『沖縄進撃作戦』を彷彿とさせる展開で、監督がダミアーノかロージぐらいしっかりしていれば大傑作になったはず。

お勧め度はB。

旧サイト:2015年08月22日(土)Pick-up記事を再録、修正。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

118『スペシャリスト』(1969年/伊、仏)C
117『父 パードレ・パドローネ』(1977年/伊)B※
116『ボルベール〈帰郷〉』(2006年/西)A
115『雨の訪問者』(1970年/伊、仏)A※
114『カサンドラ・クロス』(1976年/西独、伊、英)B※
113『イエスタデイ』(2019年/英、米)B
112『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/西)A
111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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