『バクラウ 地図から消された村』(WOWOW)😉

Bacurau 
131分 R15+ 2019年 ブラジル、フランス 日本公開:2020年 クロックワークス

舞台は数年後の未来、ブラジル北東部のペルナンブーコ州セラ・ヴェルデ市の奥地にあるバクラウという小さな村。
バクラウが架空の村であることはオープニング早々に察しられるが、セラ・ヴェルデ市という自治体までフィクションであることはネットで調べるまでわからなかった。

このバクラウ出身の昔馴染みらしいふたり、エリヴァウド(ルーベンズ・サントス)の運転する給水車でテレサ(バルバラ・コーレン)が帰ってくる場面から、この映画は始まる。
あと17㎞で到着するというところまできて、棺桶を積んだトラックとオードバイが接触した事故現場に出くわし、血みどろになったバイカーの死体が不気味な前兆を感じさせないではおかない。

エリヴァウドとテレサの会話から、バクラウ出身の共通の知人にルンガ(シウヴェロ・ペレイラ)という男がいて、度重なるテロ行為により、全国で警察に追われているお尋ね者であることがわかってくる。
バクラウでは村の長老のリーダー格で、預言者的存在だったカルメリータ夫人(リア・ヂ・イタマラカ)が亡くなったばかりで、テレサが帰ってきたのはその葬儀に出席するためだった。

葬儀の後、教師プリーニオ(ウィルソン・ラベロ)は子供たちにタブレットを見せながら、グーグルマップでバクラウの位置を教えようとして、いつの間にかバクラウの名前がなくなっていることに気づく。
古い地図には確かにバクラウが記されているのに、なぜネット上から消えてしまったのか。

折しもセラ・ヴェルデ市は市長選の真っ最中で、再選を目指すトニー・ジュニア(サーデリー・リマ)に対し、彼のインフラ政策によって水の供給源を絶たれたバクラウの村人たちは激しく反発していた。
そのトニーに牙を剥いていたルンガは、この村の英雄的存在でもあったのだ。

やがて、バクラウでWi-Fiが遮断され、村人はスマホやPCで連絡を取ることができなくなり、UFOのようなドローンが現れて村人の行動を監視し始める。
さらに、正体不明のバイカーのカップル、ジョアン(アントニオ・サボイア)とマリア(カリーヌ・テレス)にやってきて、村外れの農場で村人たちを射殺。

ここから、トニーに雇われ、バクラウの村人たちを虐殺しようと企んでいるテロリスト集団の存在が明らかになる。
マイケル(ウド・キア)をリーダーとするテロリストたちの襲撃に対し、バクラウ側もルンガが先頭に立って猛反撃を開始。

実は、バクラウにはこれまでにも、体制側が雇った非合法集団に襲撃され、そのたびに撃退してきた歴史があり、銃器と弾薬を貯蔵していたのだ
バクラウの精神的支柱の役割を担った女医ドミンガス(ソニア・ブラガ)が、アンフェタミンらしき丸薬を村人に呑ませると、年老いた村人たちまで銃を手に取り、テロリストたちを撃ち倒していく。

次第にエスカレートしていく殺し合いの場面はドライなタッチで独特の迫力に満ち、ハリウッド製スプラッター映画などには優るとも劣らず、1960年代に全盛を誇ったマカロニ・ウエスタンを彷彿とさせる。
オリジナル脚本を書いた監督クレベール・メンドンサ・フィリオは初めて知ったが、大変映画に造詣の深い人物らしく、本作でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、ブラジルの俊英として注目されているという。

バクラウには黒人や白人と黒人の混血はいても、生粋の白人はいない。
一方、バクラウの村人たちを殺す白人バイカーのカップルはブラジルの富裕層が住むリオデジャネイロ出身で、村人たちとの〝血の違い〟をほのめかし、なおかつ彼らのボスが純粋白人のマイケルであることが、本作の背景にある対立構造を如実に物語っている。

僕はこの映画を観て、コロンビアのノーベル文学賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケスが『百年の孤独』(1967年)で描いた南米奥地の架空の村マコンドを思い出した。
マコンドもバクラウのように雑多な人種が群れるようにして形成された村落で、生まれる子供のほとんどが混血であり、国や政府に見捨てられたような場所で自分たちだけの生活を営んでいた。

国が発展するにつれ、マコンドは時の為政者によって邪魔な存在になり、騙されて貨物列車に詰め込まれた村人たちは、切り立った崖から海に落とされて虐殺されてしまう。
ブラジルにもまた似たような運命を辿った少数民族や混血児の寒村が数多く存在し、この映画のように体制側から秘かに抹殺されそうになるたび、必死に抵抗して生き延びてきた歴史があるのではないか。

これ以上、付け焼き刃の知識で下手な解釈を続けるのは控えるが、久しぶりにマイノリティーの生々しいパワーをひしひしと感じさせられた。
ちなみに、バラク・オバマ前アメリカ大統領も本作を高く評価しているそうである。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

75『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
74『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
73『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
72『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
71『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
70『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
69『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
68『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
67『日の名残り』(1993年/英、米)A※
66『メメント』(2000年/米)B
65『プレステージ』(2006年/米)B
64『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
63『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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