『トッツィー』(NHK-BSP)🤗

Tootsie 
113分 1982年 アメリカ=コロンビア・ピクチャーズ 日本公開:1983年

僕が学生だった劇場公開当時、演技派スターのダスティン・ホフマンが本格的な女装に挑戦したことで、大学の映画ファン同士の間で大評判になった作品。
タモリの『今夜は最高!』(フジテレビ/1981〜89年)でもネタにされ、ゲストの根津甚八がホフマンのように女装して新宿を歩き、「(チンチンが)ついていることを忘れそうになった」と話していたことを覚えている。

しかし、僕が本作を初めて観たのは、フジテレビ『ゴールデン洋画劇場』で初放送された5年後の1987年だった。
という大昔の記憶を、NHK-BSP〈BSプレミアムシネマ〉の6月7日放送で改めて再見し、ホフマンが女装のカツラとメイクをかなぐり捨てるクライマックスまできて、やっと思い出した。

ホフマン演じる主人公マイケル・ドーシーは売れない役者兼演劇学校の講師で、生徒のサンディ・レスター(テリー・ガー)が病院を舞台としたソープオペラ(字幕では「昼メロ」)のオーディションで門前払いを食わされたことに激高。
自分が女装してドロシー・マイケルズという偽名を使い、同じ番組のオーディションを受けたところ、女性プロデューサーのリタ・マーシャル(ドリス・べラック)に気に入られ、まさかの採用となる。

同居している親友の脚本家ジェフ・スラッター(ビル・マーレイ)の小劇場公演の資金を稼ぐため、マイケルは代理人ジョージ・フィールズ(シドニー・ポラック)の反対を押し切って出演を決意。
こうして男と女の二重生活が始まると、マイケルは看護師役のジュリー・ニコルズ(ジェシカ・ラング)にぞっこんとなってしまう。

一方で、マイケルならぬドロシーに友人としての魅力を感じたジュリーは、〝彼女〟を自宅に招待して自分の子供や父親レス(チャールズ・ダーニング)を紹介。
ドロシーが女友だちとしてジュリーとどんどん親しくなっていく半面、マイケルとして一度だけ関係を持ったサンディにもデートするよう迫られるため、そのたびに男から女、女から男へと変わらなければならない。

そんなドタバタを続けているうちにも、独特のアドリヴで売り出した女優ドロシーの人気は急上昇。
テレビ局には全米からドロシーへのファンレターが殺到し、雑誌『コスモポリタン』、懐かしや『TVガイド』の表紙を飾るまでになる。

いまや有名女優となったドロシーに、ジュリーの父レスやソープオペラの主役ジョン・ヴァン・ホーン(ジョージ・ゲインズ)までが愛を告白。
プロデューサーのリタは契約延長をオファーし、かつては猛反対していた代理人ジョージもドロシー売り出しに血眼となるが、公私に渡って周囲を欺き続けていたマイケルはもはやストレスとプレッシャーに耐え切れなくなっていく。

時にクスクス、時にゲラゲラ笑わせながら、巧みな脚本と演出のテンポのよさでクライマックスへ雪崩れ込んでいく展開は見事の一語。
監督のポラック自身がホフマンとやりあう場面でなかなかの熱演を見せ、若き日のビル・マーレイ、女性プロデューサー役のドリス・べラックが脇役として渋い存在感を発揮していることも記憶にとどめておきたい。

また、ミートゥー運動、トランスジェンダー、性同一性障害などが世界的な問題になっている今日再見すると、撮影現場における女性差別が日常茶飯事として描かれているあたりに大きな時代の変遷を感じる。
そうした中で、思わずハッとさせられたシーンがあった。

登場人物のひとり、ソープオペラのディレクターのロン・カーライル(ダブニー・コールマン)は常に巨匠気取りで、自分のドラマをスタッフに「ソープオペラ」と言われると、それは侮蔑的な表現だ、オレをバカにするのかと、10ドルの罰金を取るような尊大な人物。
その半面、女性に対しては非常に差別的な態度を取っていて、下っ端のスタッフや女優を名前では呼ばず、ハニー、ダーリンなどと声をかける。

この日頃の態度にドロシーがついにブチ切れ、誰も逆らえなかったロンに面と向かって食ってかかる。
「あたしはハニーでもダーリンでもないわ! ドロシーよ! ドロシーってわかる? DOROTHY! きちんとドロシーと呼びなさい!」。

マイケルは撮影現場における女性差別に抗議したというより、ロンがジュリーの〝今カレ〟で、スタジオで大っぴらに彼女の尻を触ったりしていることが腹に据えかねていたのだ。
しかし、この一件をきっかけに、ジュリーはドロシーに対する尊敬の念を強め、ロンもバーでドロシーに出食わすと、「ここならハニーって言ってもいいよな?」とお伺いを立てるようになる。

現代においては大変示唆に富んだくだりではないだろうか。
原案はラリー・ギルバートとドン・マクガイア、脚本はギルバートとマレー・シスガルの3人がかりで、事前に入念なリサーチが行われていたことがうかがえる。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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