BS世界のドキュメンタリー『疑惑のカラヴァッジョ』(NHK-BS1)🤗

The Caravaggio Affair 
45分(オリジナル版86分) 2019年 制作:フランス=Les Bateliers Productions/ARTE France
初放送:2020年5月13日午前0時15分〜午前1時
再放送:2021年3月19日午後5時10分〜55分

2016年、フランス・トゥールーズにある民家の屋根裏部屋で、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの作品とされる名画『ホロフェルネスの首を斬るユディト』(画像)が発見された。
所有者の名前や身元は明かされておらず、代理人となった競売人マルク・ラバルブが専門家に真贋の鑑定を依頼する。

当初、日本円にして700万〜1000万円程度と査定されたこの絵はパリに送られ、ここで複数の権威ある鑑定人から「カラヴァッジョの真作に間違いない」とのお墨付きを得る。
ところが、この絵の複製画をイタリアのナポリの銀行が所有していることがわかり、事態は思わぬ迷路に入り込んだ。

ナポリのユディトはカラヴァッジョ同時代の画家兼画商ルイス・フィンソンが描いたもので、トゥールーズで発見されたユディトとそっくり。
フィンソン自身、カラヴァッジョと親交があったようで、1607年にはカラヴァッジョの真作を所有しており、当時からカラヴァッジョの複製画家として知られていたらしい。

2016年の〝真作発見〟は大々的なニュースとしてヨーロッパのメディアを席巻し、画商で美術史家のエリック・テュルカンは「これでも控えめに見積もった額だ」として140億円の値をつけた。
この事態を重大視したフランス政府文化省はユディトの国外持ち出しを禁止し、30カ月間、フランス国内に留め置く処分が科された。

この間にルーブル美術館は改めて本格的な真贋の鑑定に乗り出したが、その過程はすべて非公開。
ルーブルはルイ14世が購入したカラヴァッジョ作品を3点所蔵しており、それらの作品は歴代の所有者の身元が明らかになっているのに引き換え、トゥールーズのユディトは400年間、消息不明だったことに疑念を抱いていた。

トゥールーズのユディトは間違いなく真作だとするテュルカンの見解に対して、イタリアの美術史家ジャンニ・パービは贋作だと主張。
そこでテュルカンはフランス政府から特別な許可を得、トゥールーズのユディトをイタリアのブレラ美術館に送り、ナポリのユディトと並べて展示させることを提案する。

これには美術界から「売名行為のために疑惑の作品を展示した」と轟々たる非難が巻き起こり、ブレラ美術館の主任学芸員が抗議のために辞任する事態に発展。
しかし、美術館のジェームズ・ブラッドバーン館長はカメラの前で堂々とこう言い放った。

「展示中、トゥールーズのユディトをカラヴァッジョの真作と認めた人は誰もいなかった。
しかし、どこかの美術館がこの作品を購入して展示すれば、その瞬間から真作として魔法のように認められるのだ」

真贋論争の出口が見えない中、代理人ラバルブはこの年の6月、ユディトが発見されたトゥールーズでオークションにかけると発表。
ラバルブとテュルカンは。最低価格は3万ユーロ(約3900万円)で、1億ユーロ(130億円)以上の値をつけるのではないかと見込んでいたが、事前に1週間行われた展示会に訪れた客はごく僅かだった。

そこでテュルカンはもう一勝負して前景気を煽ろうと、ユディトをニューヨークに送り、メトロポリタン美術館の近くにあるアダム・ウィリアムズのギャラリーに展示。
この背景には、ヨーロッパ諸国がこの絵に懐疑的なのに対し、アメリカが肯定的に受け止めていた美術界の世論の潮流があったらしい。

しかし、いよいよオークションが開始される直前、思ってもみない事態が発生。
なるほど、真作か贋作か、真作の価格はこのようにして決められるのかと、納得できるかどうかは、このドキュメンタリーを観た人次第だろう。

オススメ度A。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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